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【劇場版】Fairy Melody~私はピアノ~

【劇場版】Fairy Melody~私はピアノ~

【劇場版】Fairy Melody~私はピアノ~


2017年5月12日〜14日 d-倉庫

【作・演出】

息吹肇

【楽曲・演奏・歌】

memu

【CAST】

  • 松原夏海(ワンダー・プロダクション)
  • 中澤隆範(劇団ヨロタミ)
  • 塩田貞治(ワンダー・プロダクション)
  • 河嶋健太(劇団ヨロタミ)
  • 成瀬麻紗美
  • 春摘らむ
  • さわはるか
  • 堺谷展之
  • 加藤美帆
  • 佐藤詩音
  • 瀬戸沙織(東宝芸能エンターテイメント)
  • 長紀榮
  • 山田貴之
  • 月桃さちこ(WIZ)
  • 西村守正
  • 大越陽(シーグリーン)
DVD販売中

あらすじ

会社員の明日香は、ある日入院中の祖母・八重の許嫁である春樹という青年と出会う。八重に伝えたいことがあって戻ってきたと告げ、閉校になった小学校の音楽室に一緒に行って欲しいと頼む。

聞こえるはずのないピアノの音色に誘われて、明日香は、地域の戦争について調べている従兄弟の憲吾らとともに、春樹に導かれるまま、廃校になった小学校の音楽室に向かう。そこで目にしたのは、生きているはずのない人達。

彼等が今を生きる明日香達に伝えたかった思いとは?

松原夏海
松原夏海
西村守正
大越陽
長紀榮
堺谷展之
松原夏海
memu

特設ページ

コメント

2016年4月にライブハウス・KAKADOで行った番外公演vol.8「Fairy Melody〜私はピアノ〜」が大好評だったことから、その直後にこの再演を決めていた。劇場公演ということで、初演の場所的・時間的な制約がなくなったため、脚本も劇場用に書き換えることになった。それに伴って、初演にはなかった役がかなりできたため、オーディションを行った。

また、第9回本公演主演の松原夏海さんを主役の明日香役にすることも早くから決めていたが、12月の終了からの準備期間が短かったこともあり、脚本完成が少しだけ遅くなってしまった。松原さんと同じ事務所の塩田貞治君も早くから候補に挙がっていた。彼は韓国語が堪能で、実際に韓国で映画出演の経験もある。作品中でその韓国語を使って何かできないかと思いついたのである。

松原さんと対になる戦時中の人間の春樹役は二転三転したが、劇団ヨロタミの中澤隆範君にお願いすることになった。また、同じヨロタミから河嶋健太君の出演も決まった。2人とも、脚本を読んで快諾してくれた。河嶋君は客演は初めてだったそうである。その他のキャストは、これまでの出演者とその人の紹介、そしてオーディションで決定した。今回は、1次オーディションで最後まで悩んだ役があり、残った人で2次オーディションを行った。この時に残った2人のうち、戦時中チームの八重役が当初考えていた人がNGだったため、春摘らむさんにやっていただくことになった。また、戦時中の音楽教師・薫役のさわはるかさんは、はるばる神戸からの参加で、公演期間中は劇場近くのウイークリーマンションから通っていた。

そして、この作品を成立させるために不可欠な要素であるピアノ弾き語りは、当然のようにmemuさんにお願いした。劇場にピアノはないので、借りることになった。

稽古の中盤までは、中澤君が別の公演に出演するために不在で、その間は初演の春樹役の長紀榮君に代役をお願いしていた(彼は今回は別の役での出演だった。)戦時中のシーンは台詞を殆どいじっていなかったが、役者が変わるとこうも雰囲気が変わるのかと思わせる、劇的な変化があった。演技スペースが広がったこともあるが、人間関係がより分かりやすくなった。

現代チームは、主役の松原さんが、BSプレミアムのドラマの撮影が途中まで平行していたため不在の時も多かったが、大きな支障はなかった。現代チームもシーン毎に出る人が割とはっきり別れていたので、抜き稽古がやりやすかったので、比較的スムーズに進んだ印象がある。韓国語の部分に関しては、話したこともないのに韓国人役になった佐藤詩音さんがかなり苦労した。韓国語の部分は短いのだが、日本語も韓国語訛りで喋らなければならないので、実際にどちらもできる韓国の人に稽古場に来てもらい、アドバイスをもらっていた。

今回の座組も、比較的早くからみんなが仲良くなり、稽古最終日には稽古打ち上げが行われたが、この席上で西村守正さんの下ネタが炸裂し、彼は「シモムラさん」の異名を取ることになった。また、「スイーツ王子」と呼ばれた塩田君は、稽古場の行き帰りの商店街にあるクレープ屋によく立ち寄り、僕を含めて出演者の何人かも付き合うことが多く、完全にこの店の「お得意様」になった。

 

今回も楽曲・演奏・歌で参加したmumuさんだが、初演の時から彼女には「pf(ピアノフォルテ)」という「役」があった。しかし、芝居に絡むことができなかったため、普通の演奏者としか見えなかった。再演ではそこを意識して、memuさんにも役として舞台にいてもらうようにした。そもそも劇場での上演であること、シーンが増えたこと、舞台裏と楽屋が繋がっていることもあり、memuさんがずっと舞台上にいる必要がなくなった。それを生かして、シーンの途中に彼女に登場してもらい、それを役の芝居として見せることにした。どの台詞で出るのかを、脚本を読んで確認しなければならなかった彼女は大変だっただろう。しかし、そのことがmemuさん本人が作品世界をよりよく理解することに繋がり、本番の舞台ではこれがいい効果を生んだ。

また、今回初出演の月桃さちこさんは、memuさんのサポートを積極的に買って出てくれて、その部分では事実上の演出助手だった。

 

本番での役者の好演も光った。主役の松原さんはさすがの安定感で、今回もいろいろな意見を出してくれた。初演にはなかった父親(大越陽さん)との葛藤のシーンは印象的だった。中澤君は、初演ののり君とはある意味対照的な、柔らかく親しみやすいキャラになった。河嶋君演じる幸作も、初演とはかなり違って、感情が分かりやすくコミカルな部分もある作りになった。麻紗美ちゃんの花江もそうであった。初演に比べてある意味見やすくなった反面、「あまりにも現代人っぽい」というご指摘もいただいた。ここは難しいところである。

塩田君と詩音ちゃんの韓国語の会話もいいアクセントになった。詩音ちゃんが本物の韓国人だと思ったお客様もいたほど、彼女の演技の完成度は高かった。この2人のおかげで、日韓の歴史観の話が少しだけでも入れられたのはよかったと思う。ラストの2人の空港での別れのシーンは、まるで韓国ドラマさながらであった。

やはり初演にはなかった役である、塩田君演じる憲吾の妹・紗綾子役のみほてんこと加藤美帆さんは、「Singularity Crash」の役とは打って変わって可愛い路線で、しかも本人曰く、初めて男性に好きになられる役だった。その紗綾子に片思いする友人・桜庭祐樹役の堺谷君は初参加だったが、元21世紀FOXだけあってしっかりとした演技だった。彼と、夏海ちゃんの事実婚の相手役の山田君の2人は、稽古中からアドリブ合戦になり、毎回楽しませてもらったが、だんだん尺が長くなる傾向にあった。

同じく、初演には全く登場していなかった幸作の弟・幸三が大人になり、倫人達を育てる時代のシーンも入れた。ポイントでしか出てこない役だが、幸三とその妻・淑子役の月桃さんが細やかな演技で存在感を見せた。彼女の演技を「一服の清涼剤」と表現したお客様もいた。

初演と唯一同じ倫人役を演じた西村守正さんは、陽さんとともに重厚な演技を見せ、作品を締めていた。その西村さんと絡む女子高生・桜庭凜役の沙織ちゃんは元々はミュージカル畑の人だが、今回は純粋に台詞のみだった。しっかりとしてた演技と可憐な存在感は印象的だった(飲むとただのおじさんになった)。そして、らむちゃんは、かつて某アイドルグループにいた人だが、きっちり演技ができる人で、彼女の八重役は年のとり方が自然で、評価が高かった。

 

memuさんは、まさに妖精のようなたたずまいを見せた。クライマックスの音楽室のシーンでは、ピアノの近くに台詞もなく座りっぱなしだったが、唯一pfが見えるという設定の薫とのアイコンタクトの場面では、とても自然な表情を見せ、初演とは比べものにならない程、物語に溶け込んでいた。眞野さんの舞台美術が、舞台奥の中心の高台にピアノが置かれているという配置だったこともあり、世界観的にも完全に「私はピアノ」というサブタイトルが生きるものとなった。

 

お客様にもかなりの好評を博し、客席では涙を流す人が続出。役者も稽古中はかなり泣いていた。「戦争もの」というジャンルと、シンプルで分かりやすいメッセージだったので、お客様の胸に響きやすかったということもあるだろう。高齢のお客様も多かったが、若い世代の人も楽しんでくれたようだ。初演からそうだったが、直接的な言葉を殆ど使わない「反戦」は受け入れられやすかったようだし、memuさんの歌の評価も相変わらず高かった。初演では描ききれなかった人間関係やバックボーンも見せることができた。やはり、この作品は劇場で上演すべきものだったのだと再認識した。

そして、やはり再演を望む声がある。この作品は、さらに成長を続けることになるかも知れない。

 

また、この公演ではFBI初となるアフタートークを行った。戦争を描いた作品ということで、「戦争体験放映保存の会」の、実際に出征して生還した元兵士の方のお話を、土曜日のマチネと日曜日のマチネに30分ほど伺った。急遽決まった話で、告知がかなりギリギリになってしまったにも関わらず、たくさんのお客様が残って聞いて下さった。そして、こちらもお客様からは「貴重なお話が聞けてよかった」と好評だったし、お話しして下さった方も「体験を伝える機会を持てた」ということで喜んで下さった。やってよかったと思う。

「演劇と社会を繋ぐ」ことが僕の活動の一大テーマであり、それをきちんとした形にできたことは、僕にとっても嬉しいことだった。

その意味でも、これは決して忘れられない公演となった。

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