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Glare~私の歌が聞こえますか~
(番外公演vol.6)

2015年6月27日
渋谷aube

【作・演出】息吹肇


【楽曲・演奏】

【CAST】

  • 鞠みちえ
  • 小谷陽子(製作委員会)
  • 城間宏大(SiLucisエンターテインメント)
  • 長谷川彩子
  • 細田こはる
  • 天野愛梨 (Winning Cast)
DVD販売中

あらすじ

自分の演技力に限界を感じて女優を辞めた詩音は、突然頭の中でバンドの音楽が聞こえるようになった。詩音の友人で音楽教師の天音にも、同じバンドの音楽が聞こえていた。2人とも聞いたことのある声のように感じていたが、どうしても思い出せない。その音楽は、2人の過去の苦い記憶を呼び覚ます。

 大学を辞めて女優の道を目指そうとしている彩乃は、友人の夢生菜の従兄弟の聡が代表の「虹の歌劇団」という劇団を勧められ、オーディションを受けることにする。そこは、かつて詩音が看板女優として所属していた劇団で、小劇場界で絶大な人気を誇った女優・如月マヤが一度客演していた。聡の作品に惚れ込んだ彩乃は、オーディションを受けて入団を決める。
聡は、詩音が辞めるきっかけになった作品を再演し、そこに詩音を主演で出演させようとしていた。初演の時、主役はマヤが演じ、相手役だった詩音はそこで自信を失ってしまったのだった。詩音の復帰を願う聡の思いを知り、彩乃は詩音の相手役を自分にやらせて欲しいと聡に言う。その時、聡の頭の中にもバンドの力強い演奏が流れる。

 ピアノ弾き語りのアーティストの鈴音は、曲が作れなくなり、ポッドキャストの番組をやっているが、やはりバンドの音楽を頭の中で聞いていた。鈴音の番組の熱心なリスナーで、番組宛にメールを出している夢生菜は、彩乃と会った後、自分の中で忘れていた詩作の心を思い出し、思い浮かんだ詩を鈴音に送ると、鈴音の頭の中にその詩に乗せた音楽が蘇る。
その鈴音の番組に、「マヤ」という名前でメールが届く。癌で入院中の彼女は、もう一度舞台に立つこと、バンドを組んで歌うことが夢で、そこに生き別れた腹違いの姉を招待したい、と書いていた。
夢生菜と会ってその話をした鈴音は、それがかつて鈴音が楽曲を提供した「虹の歌劇団」の舞台で客演した如月マヤではないかと思い当たり、夢生菜とともに聡に会いに行く。
2人からその話を聞いた聡は、如月マヤの腹違いの姉とは、詩音のことだと確信する。そして、詩音にそのことを伝え、マヤのためにももう一度劇団に戻って舞台に立って欲しいと説得する。

 詩音は、頭の中で聞こえたバンドの歌声はマヤのものだと気付き、舞台への復帰を決める。同じ舞台で彩乃は主役を狙おうと決意する。鈴音や天音、夢生菜も集まる。

マヤの歌声によって結集した人達とともに、聡の「虹の歌劇団」は新たな舞台に向けて動き出す。

コメント

この企画は、2014年6月に演劇ユニットmilkyさんで「True Love~愛玩人形のうた~」が上演された際、楽曲を提供していたLynks Project feat.渡辺京さんの楽曲と僕の脚本の相性がよかったことから、息吹がLynksさんに話を持ちかけて実現した。2007年にmyria☆☆さんとコラボした「ヘキセン・ライブ・ハウス」のように、ライブハウスで生演奏と芝居のコラボレーションを行うという形態を提案し、Lynksさんが乗ってくれた。
まだライブなどで演奏されていない曲を5曲使い、そこからストーリーを組み立てることにした。この曲先行のやり方も「ヘキセン…」と同じである。ただ、今回はLynksさんがバンドとして新たなスタートを切るライブの2回目にあたり、レコ発イベントに繋がるものとしても位置付けたいという意向があったため、それを最大限尊重する形の脚本にする必要があった。「glare」という曲を押したいということもあって、その曲を中心に物語を組み立てた。
ただ、この間、予定外だった「Hajime-Mind-map」の公演が入ったため準備が遅れてしまい、脚本の完成やキャストの決定もギリギリになってしまった。

 出演者集めは今回も難航。2月からの続投が陽子さん、まりりんこと鞠さん、あやさん、昨年6月のmilkyさんの出演者で、今回FBI初出演のこはるちゃんは割とすぐに決まった。その後、2月のあやさんに引き続いて、Twitterでの「ナンパ」でごまちゃんこと天野さんの出演が決まった。当初は女優のみの作品も考えていたが、物語上やはり男優が必要だと思っていた時に、こはるちゃんが出演したこわっぱちゃん家の公演に出演していたぼんちゃんこと城間君が目に止まり、声をかけたところOKしてくれたので、彼を加えて6人体制になった。
稽古開始に先立ってワークショップを行い、Lynksさんの曲を聞いての話し合いとエチュードをやった。事前に出演者の作品に対する理解の糸口を作っておくことと、出演者の力量を知っておくという意味で、これはやってよかったと思う。

 今回は脚本が稽古初日からあり、稽古をしながら少しずつ修正していく形をとった。
役者の経験の差が結構如実に現れ、稽古の過程でそれをできるだけなくしていく作業が必要になった。ここ何年かのFBIではあまりそういう機会はなかったが、ベテランの役者にも助けてもらいながら進めていった。だが、それを十全にやるには、正直言って稽古期間が足りなかったように思う。とはいえ、作品全体で80分、芝居自体は50分弱という長さだったため、キツキツという程ではなかった。
Lynksさんとの合わせの練習は、稽古序盤と本番1週間前の2回行った。「ヘキセン…」の時は1回だったが、2回やって正解だった。1回目の合わせで初めて生演奏を聞いた役者が、その演奏の迫力とかっこよさを実感。この合わせでお互いが刺激を受け、作品の形が見えたことで、その後のそれぞれの稽古/練習の方向性が定まっていったと思う。
ただ、初顔合わせのキャスト同士でコミュニケーションが十分にはかれず、シーンの稽古に支障が出たこともあった。これは反省点である。人間対人間なのでやむを得ない部分もあるが、次回に向けての課題の一つである。

 本番当日に小屋入りし、2ステを行うという強行軍を決行。しかも、入り時間が12時より前倒しできなかったため、場当たりの後にすぐ会場準備に入らねばならず、ゲネなしの本番となった。1回目と2回目の本番の間もあまりなく、全体的にスケジュールが厳しかった。
また、ソデが設営できなかったため、役者はラスト直前までステージに居続けなければならなかった。劇場ではない場所での公演ではこういうイレギュラーなことはつきものだが、役者は大変だったと思う。
バンドさんの方も弾き始めるきっかけを覚えなければならなかったり、ステージ上に演技エリアを取らなければならなかった(芝居用にステージ前に張り出しを作ったが、それだけでは狭いと判断した)ため、狭いスペースで演奏しなければならなかったりと、苦労があったようである。
しかし、シンプルなステージを意識した脚本にしたため、空間的には無理なく見られる形になっていた。

 実際に見たお客様の感想は、「斬新だった」「楽しめた」といった肯定的なものも多かったが、一方で、演奏(ライブ)と演劇(舞台)がぶつ切りになっていて、どちらも中途半端だと受け取ったお客様の声もあった。演奏と演技が絡む場面があまりなかったことでそう受け取られた可能性もある。また、PAから出るバンドの音と、役者の生声の音量やパワーの違いが気になった人もいたようだ。
こうした点は、次回以降の課題である。

 役者に関しては、ほぼ当て書きといっていいまりりんや陽子さん、あやさん、そしてこはるちゃんはかなりはまった感じだった。
あやさんは、キャストで唯一マイクで喋るシーンがあるのだが、マイクを通した声がいいと評判だった。こはるちゃんは、こわっぱちゃん家では飛び道具的に使われることが多いが、今回は彼女の「癒し系」の持ち味を発揮できるようにやってもらった。Twitterの僕のフォロワーさんでこのステージを見た人が、「笑顔が素敵だった」という理由でこはるちゃんをフォローした程である。まりりんは、僕とmixで繋がりのある人に「2月に続いて素敵でした」と声をかけられた。劇中で役の自主練をするシーンは、僕はほぼ何も動きをつけなかったが、稽古中も含めて毎回違うことをやっていた。また、聡とのシーンをよりよくするための動きを積極的に考えるなど、引き出しの多さを改めて感じさせた。陽子さんは、これまでになくフェミニンな衣装で、普段はあまり見せない美脚を披露した。
今回「黒一点」のぼんちゃんは、年齢には不相応とも思える(?)ルックスと落ち着いた台詞回しで、夢を追い続ける劇団代表・聡を好演。ごまちゃんは、芝居という夢に向かって突っ走る彩乃を懸命に演じていた。彼女のふと見せる表情はなかなかに魅力的であった。
それぞれがそれぞれに持ち味を出し、結果としてバランスのとれた舞台になっていたと思う。

 今回も、恒例の小塚ツルギさんによるPVを作成。こはるちゃんの「癒しタイム」もさることながら、ごまちゃんの独特の雰囲気がかなり強調されたできあがりになった。ツルギさんから「絡みづらい」と言われながら、何だかんだで一番いじられていたのはごまちゃんだった。

 様々な課題と反省点が残り、これが完成形とはいえないが、役者によって演じられる物語と、バンドさんの生演奏が同時進行して、ある種の化学反応が起きるコラボレーションの楽しさや醍醐味は十分に出すことができたと思う。aubeの店長さんからも、「これだけのことを1日だけというのは勿体ない」と言われた。
その意味では、やってよかった公演であり、次に繋がっていく作品となった。

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