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Ture Love-愛玩人形のうた-2014

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Ture Love-愛玩人形のうた-2014

演劇ユニットmilky 2014年


2014年6月6日~8日 戸野廣浩司記念劇場

【演出】斉藤貴幸
【CAST】
・i:渡辺京(Xidea)
・江本美智子:中西みなみ(チームからふる!)
・八神愛理:☆あみ★(霧の旗プロジェクト)(Aチーム)
・八神愛理:細田こはる(Bチーム)
・上杉翔太:瀧啓祐(リーディングカンパニーくらじぇむ/演劇ユニットこわっぱちゃん家)
・鮎川哲郎:斉藤貴幸(Aチーム)
・鮎川哲郎:牧秀和(Bチーム)

コメント

今回の話は、演劇ユニットmilkyさんが、mixiで脚本家を募集していたのを見て連絡をとったのが始まりである。主宰の斉藤貴幸さんとお話をする中で、第8回公演で上演したこの脚本を提供することが決まった。自分の中でこの作品をやりきったという感じがなかったこと、上演時間90分というオーダーに合いそうだったこと、指定された期日までに新作を書き上げることができるか確信が持てなかったことが、この作品に決めた主な理由である。
 まず斉藤さんに脚本を送り、それを読んだ斉藤さんと遣り取りをする中で、初演時の脚本を修正することになった。だから、milkyさんで上演された脚本は、初演時のものとは異なる。特に、作品中における愛理役の位置付けを変えたことが大きな変更点である。こうした第3者の視点を入れての修正作業は初めての経験で、非常に勉強になった。

 これまで、僕の脚本を他団体が上演して下さる場合、その殆どが離れた場所だったり、学生の校内公演だったりしたこともあり、僕が制作過程を実際に見たことはない(ELEGY KING STOREさんの「羅上の蜘蛛」の時には、演出として関わった)。今回は、東京都内で稽古が行われていたこともあり、2回ほど稽古場に顔を出した。そんなこともあって、他の団体さんの芝居とは思えない親近感を持つことになった。
稽古場では色々なことがあったようだが、出演者達は団結して乗り切り、本番を迎えたようである。

 斉藤さんは役者募集や告知の中で、この作品を「歌とダンスと会話劇で魅せるエンターテインメント」と表現していた。初演のイメージが頭にあった僕は、この脚本をエンターテインメントといっていいのか分からなかったし、あの芝居にどうやってダンスを入れるのか(脚本にダンスの指定はない)、ある意味興味津々だった。

 そして、実際の舞台を見ると、確かにその通りの作品になっていた。今回は初演とは楽曲が全て異なる。Lynks Projectさんというバンドさんが、既存の曲の中から脚本の内容に合う曲を斉藤さんと話し合って選び、舞台用に制作し直して提供して下さったものだという。それが作品世界に見事に溶け込み、作品のエンターテインメント化に大きな効果を上げていた。芝居を見た僕の知り合いの中には、この作品のために書き下ろされた曲だと思った人もいたほどである。また、別の知り合いは後日「歌が芝居に挿入されているというよりは、むしろ歌のまわりを芝居の筋がめぐっているようで、興味深かった」という感想を知らせてくれた。初演では十分できなかった「音楽劇」として、この脚本が蘇ったということである。
また、その楽曲が歌われる時に挿入されるダンスが歌のシーンを引き立たせ、エンターテインメントとしての舞台の大事な要素として機能していた。振り付けは斉藤さんである。そのダンスは基本的には出演者全員によって踊られた。そのため、本役から早変わりでダンサーになる人もいて、なかなか大変だったようである。

 千秋楽の終演後、閉まった幕の内側で、役者がみんなでハグし合い、女優陣は泣いていたという。自分のユニットの芝居でも、そんな光景は見たことがない。役者には何かこみ上げてくるものがあったのだろう。
芝居はかなり好評を博したようで、作者としては一安心といったところである。初演を見たという人が僕が知る範囲で2人いたが、その人達も今回の舞台の方がよかったという意見だった。初演に関わった者としては些か複雑な思いはあるが。

 役者は皆好演で、僕の目から見ても初演よりむしろしっくりくる役者も複数いたが、愛理役で初舞台を踏んだ現役女子大生・細田こはるさんの存在は特筆に値する。多くのお客さんは、当パンを読まなければ、彼女が初舞台だと分からなかったのではないか。それ程彼女の演技は堂々としていた。そんな彼女は、稽古場では笑顔を絶やさず、みんなのマスコット・アイドル的存在だったという。
また、この公演を機に、主役のiを演じて劇中の楽曲を歌ったみやちゃんこと渡辺京さんが、Lynks Projectさんのフィーチャリングヴォーカルに迎えられ、活動することになった。こうした新しい繋がりが生まれるのも芝居のいいところである。

 作者の僕としては、この脚本の潜在的な何かが引き出された、思わぬ拾いものをしたような舞台だった。この舞台によって、僕自身今後のひとつの方向性が見えてきた気がしている。その意味でも、本当に上演してもらってよかった公演である。

 余談だが、みやちゃんは、FBI番外公演vol.3「癒されない女」で人を癒すロボットの役を演じていた。今回もアンドロイド役ということで、「私は、息吹さんの作品では、人間は演じさせてもらえないんですね」と言っていた。勿論そんなことはなく、単なる偶然である。難しい役に正面から取り組み、芝居を支えてくれた彼女には、心から感謝している。