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ヘキセン・ライブ・ハウス

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ヘキセン・ライブ・ハウス(番外Vol.2)

2007年7月28日 ヘキセン・ライブ・ハウス ~密かに見守るは真昼の月~ MOSAiC

【 作・演出 】息吹肇
【 CAST 】
■ 若月早苗:豊田ゆかり
■ 坂本竜也:山田哲朗
■ 堂本啓介:八反田恍星
■ 草野真美:佐々木いつか
■ 月島菜緒:大塚梨絵
■ 美月和音:窪田智美
■myrai(バンド):myria☆☆

DVD販売中

あらすじ

メジャーデビュー直前に突然姿を消した伝説のインディーズバンド・myrai(ミライ)の「復活ライブ」の案内状を受け取り、ライブハウスを訪ねてきた人達。

 myraiの初期に関わり、その後フリーターをしながらインディーズバンドを渡り歩いているギタリストの竜也。その竜也とライブで知り合い、同棲するもうまくいかず、たまたまmyraiのライブに来ていた友人でお笑い芸人志願の菜緒の恋人・ベンチャー起業家の啓介と関係を持ち、子供をつくってしまった後に彼と破局した派遣社員のさなえ。その菜緒とコンビを組んでお笑い芸人を目指していたものの、菜緒と方向性が合わず、お笑い番組の最終オーディションで落ちてしまったことをきっかけに菜緒と喧嘩別れした真美。その真美は、たまたま行ったライブで竜也に一目惚れ。意気投合して、今では同棲しながら新たな笑いを開発しようとしている。会場には、コンビ解消後にパニック障害になって人混みに行かれなくなってしまった菜緒と、会社が倒産して途方に暮れている啓介も来ていた。互いに顔を合わせたくない微妙な関係だ。

 そしてもう一人、和音という女が来ていた。

 実際の演奏は始まらなかったが、彼等は自分達と関わりのあるmyraiの音楽を思い出しながら、自分の内面やお互いの関係、過去と向き合う。そして、少しずつ前向きな気持ちになっていくのだった。

 実はこの架空の「復活ライブ」の案内状を送ったのは、myraiのボーカルで姿を消してしまったルナの音楽仲間だったピアノ弾き語りの和音。ルナが突然病死し、ショックで歌えなくなっていた彼女が、ルナから託されたmyrai最後の幻の曲『ヘキセンハウス』を演奏しようとしたからだった。しかし、結局それはできず、聴衆に謝罪して会場を去ろうとする彼女に、真美が、「自分は楽器はできないけれど、一からギターを習うので、一緒に音楽をやりませんか」と声をかけてくる。また、帰り際にさなえが、「私、昔ベースやってたんですよ。よかったら声かけて下さい。」と言い残す。和音は、音楽に再チャレンジしようと改めて決意するのだった。

 客が帰り、誰もいなくなったライブハウスに、myraiの力強い演奏が響き渡る。

コメント

この企画は、2006年の『MIRAGE HOTEL』にmyria☆☆のヒマリさんに出演していただいた時に、いつかバンドと芝居との完全コラボレーション公演をやろうという話で盛り上がったことから始まった。

最近は芝居とバンドのコラボはさほど珍しくはないが、その多くはバンド演奏と芝居との繋がりが薄く、単発コントやオムニバスの間にバンド演奏が入るという形式が殆どである。しかし、この公演では、芝居のストーリーの中にバンド演奏を組み込み、脚本の内容と曲の内容や雰囲気をリンクさせることで、より有機的な繋がりを両者に持たせることを狙った。

初めてのライブハウスでの公演だったが、ステージの前に平台と箱馬で仮説の舞台を作り、芝居はそのスペースで行うことになった。これは、ステージが客席フロアより高かったので実現できたものである。ただし、袖が設営できなかったため、役者は出番がないときでも、ステージ上(上下の椅子)に居続けなければならなかった。また、椅子以外に道具を置くスペースはなく、照明も基本的には演奏用のため、役者には忍耐力とともに、素舞台での演技力が求められるものとなった。

基本的には役者とバンドはそれぞれ別に稽古することになったため、稽古場ではmyraiことmyria☆☆さんの曲を流しながら稽古を行った。上演時間を1時間40分以内にするため、脚本の大幅カットと演奏曲数の削減をすることになり、芝居側・バンド側ともに苦労することになった。また、今回も男優がなかなか決まらず、最後に決まった八反田さんの合流は本番の3週間前になった。

こうしうたいろいろな困難にもかかわらず、役者陣は今回もチームワークと「根性」で素晴らしい舞台を作り上げてくれた。初対面の人も多かったが、今回もすぐにみんな仲良くなり、アップを兼ねたゲームは毎日ヒートアップしていたようである。因みに、バツゲームが一番多かったのは、アネゴこと豊田さんであった。

『Unforgettable』から続投の女優3人はしっくりとはまった存在感ある演技を見せてくれた。特に今回ブレーク(?)したのはお笑いコンビ「変なクシャミ」を演じたりえぷーこと大塚さんといっちゃんこと佐々木さんのコント。2回あるコントシーンは、いっちゃんが書いたネタをりえぷーと2人で練り上げて完成させたもの、つまり、彼女たちのオリジナルである。お笑い初挑戦で緊張していたいっちゃんだが、ベテラン(?)りえぷーのサポートも受け、蓋を開けてみれば大ウケ。2回目の公演では拍手までもらっていた。また、初出演の関西系・てっちゃんこと山田君もいい味を出していた。コントの間中、シーンに関係ないキャストとバンドの人達は、笑いをこらえるのに必死だったという。

その一方で、豊田さんと八反田さんは大人の落ち着きある演技を見せ、芝居をひきしめてくれた。エロス担当の豊田さんは、八反田さんとのラブシーンの見せ方を結構研究したようである。

また、やはり初出演の窪田さんは、稽古場でのやんちゃぶりが嘘のような透明感ある静謐な存在感で、長ゼリに死にそうになりつつも、芝居の要としての役割をしっかりと果たしてくれた。

しかし、何と言っても目立ったのは、やはりりえぷーの菜緒だろう。お笑いコンビで見せるコミカルでパワフルな演技から、コンビが破綻してパニック障害になるシリアスシーンまで、振幅の大きな役柄を見事に演じてくれた。見事と言っていいと思う。

特に彼女や豊田さんには、場面転換を見せ転にすること等、芝居全体の事に関してもたくさんの助言をもらい、助けてもらった。多謝である。

そして、今回のポイントである生演奏とのコラボは、想像以上のインパクトをもたらした。1回だけ行ったスタジオを使っての合同稽古の時でもみんな「生」の迫力を実感していたが、本番で合わせてみると、それは何倍にも何十倍にもなっていたと思う。演奏者と演者がお互いに刺激し合い、相乗効果をもたらしていたのだ。お客さんの反応も「大成功した実験に立ち会えた気分」といった好意的な受け止め方が大半で、「1日では勿体ない」という声も多く聞いた。

人間関係が複雑なストーリーのため、今回初めて当パンに「人物相関図」が登場。元を書いたのはりえぷーだった。

初めての試み故に苦労も多く、辛かった人も多かったと思うが、僕自身はやってよかったとおもっている。本番はたった1日だけだったが、今回ほどいろんな人に支えられたと実感した公演はない。やり終えた充実感・達成感も大きかった。勿論、課題もいろいろあったが、全て次に繋がっていくと思う。

蛇足だが、2005年の第4回公演より続けて制作を勤めていただいた岡野氏が、この公演を最後に小劇場界を離れ、WAHAHA本舗の制作として新たな道を歩み出すことになった。打ち上げでは役者と僕からささやかな記念品を贈呈して、新たな門出を祝った。

そういった意味でも、この公演は決して忘れることのできない、一つの記念碑的な公演となった。