Favorite Banana Indians

Mail

MIRAGE HOTEL

ホーム>作品>MIRAGE HOTEL

MIRAGE HOTEL(2006年)

2006年7月21日~23日 江古田ストアハウス

【 作・演出 】息吹肇
【 CAST 】

  • 佐倉涼:出口雨(劇団あかしや)
  • 佐倉蒼子:座喜味直子(F2C2)
  • 小野寺賢治:林寛
  • 茜:塚本あい(Air studio)
  • 支配人:油津泰行
  • 1~の涙の会会長/涼(老人)/犬/メイド・わか/老婆:小林亜愛
  • 1~の涙の会会員/金持ち/メイド・あき
    /堕天使:丸岡たけし(不等辺さんかく劇団)
  • 従業員/涼(近未来)/人形:木村亮(リルト)
  • 1~の涙の会会員/涼(青年)/飼い主/メイド・かすみ/堕天使:川崎祐太
  • 従業員/1~の涙の会会員/涼(蒼子に会う前)
    /貧乏人/メイド・のあ:桜井樹里(シアタードリームズ・カンパニー)
  • 碧の女/別の女:ヒマリ(myria☆☆)

あらすじ

普通のサラリーマンの涼は、妻・蒼子との関係がうまくいかず、別居状態のまま1年が過ぎたある日の朝、通勤途中で聞こえてきた女の声に導かれ、知らない町の知らない駅で降りてしまう。辿り着いた不思議なホテルで、涼は唯一の予約の客として扱われる。そこで出会ったのは茜という女。涼には見覚えはないが、茜は涼を自分の愛する人だという。鍵を渡された涼は、ホテルの支配人から、部屋の鍵は涼のもの以外にもう一本あって、それで一対であること、そして茜と二人でその部屋に宿泊しなければこのホテルからは出られないと告げられる。
 ドアが現れては消えるおかしな空間のホテルを彷徨い、不可思議な宿泊客と出会いながら、涼と茜は螺旋階段を上って、目的の部屋を探す。その過程で、涼は改めて蒼子の存在の大きさに気付く。しかし涼は、親しげに振る舞う茜のことをどうしても思い出すことができない。
 一方、涼と蒼子の学生時代からの友人である賢治は、涼からのSOSのメールを受け取った。賢治は、蒼子とともにホテルに向かう。二人は支配人から、涼の持っている鍵の片方を見付けなければホテルから出られないと告げられる。涼達と同じようにホテルの中を彷徨いながら、蒼子もまた、自分の中の涼の存在と涼への思いを確認していく。
 そしてついに、蒼子は涼が予約したという部屋を見付ける。しかし、彼女が神の運命に定められた涼の相手ではないと告げられ、それに反発した蒼子は、その部屋に幽閉されてしまう。遅れて部屋の前までやってきた涼は、蒼子を助けようとするが…

コメント

この公演は、当初別の劇団とのコラボという形式で考えられていたものを、諸般の事情によりFBIの本公演に変更したという経緯がある。そのため、比較的短い期間で出演者やスタッフ等の体制を急遽立て直して臨まなければならなかった。

 キャストは、当初予定していた人に後から声をかけた人達が加わるという、いわば偶然の産物である顔ぶれとなった。続投組は3人で、これまで全く関わりを持っていなかった人も多い。また急遽声をかけたため、直前まで本番等の別の予定を抱えている人もいて、なかなか全員が揃っての稽古ができなかった。それが原因でシーンや人によって稽古量にバラツキが出てしまったことも事実である。『明るい反抗』以来の大人数で、初対面同士が多かったにもかかわらずみんな仲良くなって、いつもながらの賑やかな稽古場となった。脚本中のシー
ン名に因んで「さかしま○兄弟」等の‘グループ’が生まれたりしている。また、稽古場の‘慰み者’としての地位を確立してしまった役者もいる。

 久々のファンタジーのため、衣装、装置関係にも力を入れた。PPCでも大活躍だったみむさんの衣装は大好評で、中でも「犬」の被り物は注目の的。亜愛さんの演技をヒートアップさせた。また、FBIになって初めて舞台装置を使ったが、これも不思議なホテルの雰囲気を表現するのに一役買った。アンケートでもこの装置を褒めるものが多かった。ランダムに開閉する4カ所の扉は何処へ転がるか分からないストーリーの象徴ともなったが、裏では舞監さんと役者陣が、転換表を確認しながら走り回っていた。早替えなどもあり、今回も裏は戦場だ
ったという。

 装置とともに好評だったのが、舞台上と中央アーチの上のオブジェ。これは、2005年の番外公演『Noisy Gallery』でお世話になったアーティストガーデンの岡本さんの手になるものである。これが舞台関係のお仕事は初めてとはとても思えない。舞台上のいいアクセントとして生きていた。

 「お遊び」もたくさん取り入れた。‘萌え’全盛の時流にのって、メイドのシーンが登場。特に注目を浴びたのは、男の2人(丸岡さん・川崎君)だった。また、「大人のファンタジー」を掲げた今回、僕の作品では初となる‘馬乗り強姦シーン’というちょっと激しいシーンと、終盤の涼と蒼子のキスシーンでは、役者は文字通り体当たりの演技。特にキスシーンは、当初の脚本にはなかった。

稽古の途中から本イキだったが、劇場に入ってからは、座喜味さん・出口君の『Stand Alone』以来となるコンビの気持ちが乗ってきて、時間がだんだん長くなっていったのは有名な逸話である。

 特筆すべきは、インディーズバンド・myria☆☆の楽曲を劇中で使用したことだろう。2006年秋発売予定のCDに収録する曲から選び、ヴォーカルのヒマリさんに‘役’として芝居に出演して歌っていただいた。この試みに関しては賛否両論があったが、歌詞を含めた歌の世界と芝居をリンクさせるという試みは、『Stand Alone』からの「歌」を使う芝居の流れを一歩進めたものである。ヒマリさんの、役者とは違う不思議な存在感が役の設定にうまくマッチし、芝居全体に独特の色を与えてくれていたと思う。ヒマリさんは、初体験で慣れない終演後のロビーでmyria☆☆のCD・DVDを販売したが、こうしたこともFBIでは初めてだった。

 いつもながらに酷評と好評が入り乱れたが、ハッピーエンドだったこともあるのか、脚本的には概ね好評だった。myria☆☆のお客さんが来てくれたり、芝居関係者のお客さんがmyria☆☆に興味を持ったりといったこともあったようである。いくつかの課題はあったが、いろいろな出会いもあり、やはりやってよかったと思える公演である。