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青が刺す

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青が刺す(弾丸MAMAER)

~観劇日・劇場

2003年8月12日 シアターグリーン

~作・演出・出演

  • 作・演出/竹重洋平
  • 出演/山口晶由・田中直行・田仲晶・田中美奈子・河合伸之・馬渡直子・片岡永子・たむらもとなり・椋田武司・海原(アキラグローバルビジョン)・星野恵亮・村田芳樹(アキラグローバルビジョン)・竹重洋平

感想

ハートハートハートハートハート

青が刺すこの劇団を知ったのは、ある劇団のサイトのBBSだったと思う。役者の何人かが書き込みをしていて、その劇団名が印象に残ったので、実際に見てみたいと思うようになったのである。グリーンフェスティバル参加作品なのだが、こういうフェスティバルに参加するには劇団の足腰の色々な意味での強さが求められる。それがあるのだから、きっと中身も面白いに違いないと思い、数年ぶりのグリーンを目指した。楽日とあって客席は超満員。これは期待できると思って見たのだが、結果としてはその期待以上のものだった。
 とあるホテルの一室に1人のヤクザがかくまわれている。彼は藤本組組員・加地(山口)。少し前に対立する組の組長を撃ってきたのだ。加地の舎弟・坂堀(田中直行)は加地の手柄を喜ぶが、加地自身は誰かが自分を殺しにくるのではないかとかなりびびっていた。恐怖心と高ぶる心を抑えるために1人になりたい加地だったが、何故かホテルの従業員(片岡・たむら・椋田)や元組員の小料理屋の大将・土井(河合)が出入り。また土井が気を利かせて呼んだホテトル嬢(田仲)と恋人の山内(田中美奈子)が鉢合わせしたり、土井の友人でホテルのおかしな支配人(小松原)が茶々を入れたりと全く落ち着かない。そこへ藤本組幹部の峰岸(星野)が訪れ、警察には出頭せずに暫く九州で身を隠せと告げる。身の危険を感じる加地。しかし、実は加地は組長の襲撃には失敗し、殺してはいなかったのだ。そしてこのことが、さらなる波紋を呼ぶことになる。
 所謂「シチュエーションコメディ」に分類されると思われるが、浮ついたところがなく、非常に骨太な舞台だという印象を受ける。脚本がよく作り込まれていて、登場人物の描写が丁寧だ。「任侠モノ」ではあるが、本物のヤクザの世界とは違っている部分も当然あろう。しかし、少なくとも僕の目には嘘くささ・不自然さが感じられるところはなかった。多くの人物が登場し、場面が動かないにもかかわらず、展開にも無理を感じさせるところはなく、中だるみなく一気に2時間見せられた感じだ。こういう舞台にはなかなかお目にかかれるものではない。ただし、ラストを踏まえてのものだろうが、「因果応報」という芝居自体のキーワードの選択が果たして適切だったのかは、多少疑問が残る。
 役者は全員が好演。中心の2人(山口・田中直行)はしっかり見せてくれたが、ワキも充実していた。従業員のグループ3人は1人1人持ち味が違っていて実に個性的だが、アンサンブルとしてもよくまとまっていて、要所で笑いを誘っていた。それでいて出しゃばった印象がないのも凄い。ホテトル嬢・ミホを演じた田仲は、崩した役なのにこの芝居のキーワードを言い、人生の機微(?)を語らなければならない難しい役所だったが、文字通り体当たりで演じていた。それと好対照の、可愛い系の天然女の田中美奈子もはまっていてよかった。主宰の竹重自身もホテルの客で一癖ありそうな藪医者の役を怪演していた。
 とにかく役者陣のバランスの良さが目立った舞台である。また、全体に締まった感じを与えていたのもよかった。これは「究極のサディスト」と噂されていると自らパンフの挨拶文に書く作・演出の竹重のカラーであり、稽古場の厳しさの表れでもあるのだろう。「弾丸のように突っ走る母」というのが劇団のネーミングの意味だそうだが、成る程言い得て妙だと思う。
 コメディは人間性に関する深い洞察と的確な描写に裏打ちされてこそ、奥行きと面白さが出るものだ。そのへんが欠けていたり浅かったりすると、コメディのためのコメディになってしまう恐れがある。その意味で、弾丸の芝居は本当のコメディであり、まさに「弾丸」のように見る人の心を撃つ力を持っている。決して派手ではないが、多くの人に勧めたい劇団だ。