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ながしの錠

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ながしの錠(もしもしJET)

~観劇日・劇場

2003年8月10日 アドリブ小劇場

~作・演出・出演

  • ~作・演出/山岡由和
  • 出演/牧野陽一・やまねあやこ・高橋陽子・菱原顕太郎・嶋田貴秀・石丸くん・高橋琴美・寺島愛・世古はるか・油津泰行・熊谷政文・野本富予

感想

ハートハートハートハートハート

ながしの錠この芝居は、FBI第3回公演の照明をやってくださることになった方が明かりをやるというので、その方のご招待という形で見せていただいた。この劇団を見るのは勿論初めてだったし、名前も聞いたこともなかった。何の先入観も持たずに見に行ったのだが、行ってみると楽日だというのに客席は結構お寒い状況になっていた。まだ2回目の公演ということもあり、名前も知られていないのだから仕方がないと思っていたが、舞台を見て思わず納得してしまった。
 明治維新から数年を経た浅草のカフェ・アイリス。元は女郎屋だった店の伝統を受け継いだ女将・桔梗(高橋陽子)ものと、かえで(高橋琴美)、もみじ(寺島)、あんず(世古)の女給達は、昼間はカフェの店員、夜は女郎宿で春を売るという生活だ。街では突如現れた帚星が話題になっている。そんな時、桔梗はひょんなことから店に現れたながしの給仕・錠(牧野)を雇うことになった。その出で立ちと立ち居振る舞いに女給達は胸をときめかす。同じ頃、町内に住む飛行機の発明家・日野(石丸)の息子タルホ(野本)は、お腹をすかせてアイリスに忍び込んだところを錠に見付かり、二人はそれをきっかけに交流を深める。しかし、そこへ錠を追って一人の女・桔梗(やまね)が現れる。桔梗はアイリスに住み込みで働くようになるが、実は錠が親殺しの犯人ではないかと疑っていた。一方、これまた錠を追ってやってきた銀之丞(嶋田)は、錠をおびき出すために、元奉行所役人で今はヤクザに成り下がった熊次郎(菱原)とその手下を使ってあんずを誘拐する。そして、銀之丞との対決の場で、桔梗の親殺しの真相と錠の過去が明らかになるのだった。
 「冒険浪漫時代劇」と銘打たれているのだが、正直言って首を傾げざるを得ない。錠の過去が帚星と絡んでいることは分かるのだが、それが芝居全体に効果をもたらすほどのファクターにはなっていないし、そこに日本初の飛行機を絡めるのも無理矢理で、事実絡んでいない。ストーリー的には錠と銀之丞の対決が山場になるのだろうが、そこまでの展開がどうにも弛緩していて、はっきりした山場とはなっていないのが辛い。結果的に芝居全体が平板になってしまい、焦点がぼけた。
 また、空間の使い方にも完全に失敗していた。それほど広くはない間口の舞台いっぱいにカフェのセットを組んでしまったのだ。しかし、この芝居には町外れの荒野や日野の家等、他の場所が何度も出てくる。しかも、最後の決闘のシーンでは殺陣も入る。だが、セットのおかげでこうしたシーンは全て舞台の前面のごく限られたスペースでしか展開できない。特に苦しいのは殺陣で、役者の距離が極端に近くなるため、人質を救い出した後一騎打ちになるシーンなのに緊迫感を著しく欠いたし、殺陣自体のダイナミックさも失われてしまった。このことも芝居全体の盛り上がりに水を差したと思う。
 役者は、言葉としての台詞は殆どなく、表情と仕草で相手役とコミュニケーションをとるという難しい役柄の野本が目を引いた程度。しかし彼女の役自体があまりうまくストーリーに絡んでいないので、その分損をしていたような気もする。それ以外の役者は、可もなく不可もなしといったところである。ただ、熊次郎とその手下グループの演技はいただけなかった。
 見るべきところの殆どなかった芝居だったが、僕が一番腹が立ったのは、この芝居の料金が2500円に設定されていたことだ。自分達の芝居がどのレベルにあるのかを客観的に判断できれば、所謂小劇場の相場より少し高めの料金など設定できる筈もない。勿論、払った金額に見合ったものだったと客が判断できれば問題はないのだが、少なくとも僕にはそうは思えなかった。今回は招待券だったので実際にはお金は払っていなかったのが不幸中の幸いというところだろうか。
 お客さんからお金を取って時間も使わせてしまうという行為である以上、そのお客さんが納得し、満足して劇場を出てくれるようなものを作る義務が作り手にはある。そのことを改めて強く意識できたという点が、この観劇の唯一の成果であった。