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ヤコブ横須賀泥だらけのSEX/毛皮族民主主義人民共和国

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ヤコブ横須賀泥だらけのSEX/毛皮族民主主義人民共和国(毛皮族)

~観劇日・劇場

2003年2月6日 下北沢駅前劇場

~作・演出・出演

  • 作・演出/江本純子
  • 出演/町田マリー・江本純子・和倉義樹・原口洋平・佐々木幸子・柿丸美智恵・澤田育子(拙者ムニエル)・足立雲平(ロリータ男爵)・山下和美(α.C.m.e.) 他

感想

ハートハートハートハートハート

ヤコブ横須賀泥だらけのSEX/毛皮族民主主義人民共和国(毛皮族) 初見参である。何でも「えんげきのページ」(だったかな?)で人気ナンバーワンになったという、注目の劇団らしい。「Stairway to Heaven」でお世話になったα.C.m.e.の山下が客演していて、彼女からの案内で行くことになった。タイトルからして凄いのだが、チケットは売れたようで、指定席は全日程完売しているようだった。僕が行った初日もかなりの入りで、立ち見が出る程の盛況ぶり。一体何がこの人気の秘密なのか。始まってから、いや、正確には始まる前からそれは分かった。
 「5分前」と称するプレイベント?があり、主宰の江本が「ジュリー」の格好で登場。「ダーリン」を熱唱する。しかし、ジャケットの下は何とトップレス。当然のように彼女は歌の途中でジャケットを脱ぎ捨てた。片方の乳首が出てしまうハプニングも。そう、この劇団の「売り」の一つは過激な露出である。
 ストーリーはあってないようなもの。8つのペニスを持つ皇子(原口)が治める絶海の孤島・東朝鮮に、恋人の鉄太(和倉)拉致同然に連れてこられ、スナイパーとなったナミー(町田)は今や弱視の女衒・ユン太郎(江本)の恋人。その東朝鮮では、海女達をはじめとする女達はみな大きな貞操帯の着用を義務づけられている。皇子の他の男は風呂屋の倅・タケル(原口・二役)のみ。ナミーはそんな体制に戦いを挑む。
 と、一応書いては見たものの、ストーリーは全く重要ではない。むしろ艶めかしい海女達のダンスや、皇子の妾集団「悦び組」と、見せ物と化した「お障り組」のダンス等、個々のエピソードやシーンの積み重ねで舞台は構成されている。主宰の江本の趣味か、随所に宝塚のレビューや歌謡ショーの要素が見て取れる。しかも、それを演じる役者達は概ね体を露出するような衣装が当てられており、人によっては本当に最低限の場所しか隠していない状態で舞台に立つ。そういう女優が10人以上同時に並ぶのは圧巻だ。男優は殆ど添え物と言っていい扱いである。
 出演者達が、劇団員も客演も文字通り体を張って舞台に乗っているのが毛皮族の大きな特徴である。それは、芝居とは芸術表現である前に「芸能」であり、猥雑な「見せ物」であることを強烈に僕達にアピールしているようだ。そして、これだけ際どいことをやっても陰鬱な「スケベ」感がなく、むしろ明るくパワフルな「お色気」に見えるのは、脚本・演出を女性がやっているためだと思われる。おそらく女性が見ても嫌悪感は持たないだろう。
 その主宰の江本は、劇中で男役もやっているように、雰囲気は宝塚の男役。ちょっと3の線が入った中にもエレガンスを感じさせる。そして主役の町田は、さすがに看板だけあって可憐で強い存在感が目をひく。スタイルもなかなかのものだ。原口のベビーフェイスで棒読みというキャラがこの劇団の男優の地位を如実に示しているようだ。客演組はみな骨太で印象的な演技だったが、中でもロリータ男爵の足立は女装があまりにもはまり、全ての役が女だったにもかかわらず違和感が全くなかったのは驚きだった。そして、アクメの山下は喫茶店のママという本役では年齢に似合わぬ色気を感じさせ、その他のレビューシーンでもかなり目立つ場所で踊りを披露するなど、自劇団以外でも確実に存在感を増しているなと感じさせた。
 本編の後の「ギラギラグランドレビュー・毛皮族民主主義人民共和国」では、本編の出演者全員がセクシー衣装でピンクレディのヒットナンバーを歌いながらレビューを見せる。「透明人間」では照明を消した間に役者が客席に入り込み、明かりがつくと客席の中で踊るというサービス(?)も。締めは江本と町田メインで「宝塚」のフィナーレとなる。開演から約3時間。お腹が一杯になる芝居である。
 本編の芝居は舞台転換が多く、無駄と思われる暗転も結構ある。しかし、転換のどたばたも含めて見せてしまおうとしたり、どの歌もフルコーラス歌わせるところなどは、良くも悪くも江本の趣味が明確に貫かれていて、それが「見せ物」らしさを際立たせている。何よりも女優陣のあの潔さには「かはらもの」としての「役者」魂を見せられる思いだ。それを実感するためだけでも、十分に見に行く価値のある劇団である。ただし、必ず椅子席を確保することをお勧めしたい。