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Stand Alone

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第4回 Stand Alone ~真っ直ぐな線を引いてごらん~

2005年

~【 演出 】息吹肇
【 CAST 】

  • 北条藍/北条紅:座喜味直子(F2C2)
  • 大岡正義/榊聖人:出口大介(劇団あかしや)
  • 迫田知代/青柳麗子:田仲晶(弾丸MAMAER)
  • 松本沙理奈/都築澪:大塚雅子(劇団夢のミルクこうじょう)
  • 大江保/稲垣誠司:勝又潤哉(劇団あかしや)
  • 宮本隆/吉岡正:小原正貴(劇団三年物語)
  • 坂本美希/神田弥生:小林亜愛
  • 細川官房長官:柿沼直樹
  • ニュース(声):三浦彩花

あらすじ

20XX年の日本では、携帯型爆弾による市民の自爆事件が後を絶たず、また強者と弱者の格差の拡大から、テロリストや武装グループの活動が活発化するなど、社会は不穏な空気に包まれていた。
そんな中、 「バラ色の未来」を名乗る武装グループが、理想の社会の建設を掲げて都内で路線バスを襲撃。乗客を人質として拉致し、政府に対して要求を突きつける。そして、期限内に回答しなければ人質を殺害すると通告する。

テーマパーク跡地の施設内に監禁された人質達は、互いに疑心暗鬼を抱き、なかなか結束できない。そんな状態を何とかしようと、看護士の藍と教師の正義は人質達同士の交流を図ろうとする。しかし、それぞれに影を背負った人質同士は素直に打ち解けることはできない。

夫と子供を誤って殺した米軍に対する復讐に燃える「バラ色の未来」の副長・紅は、部下からの報告を受けて、人質の中に双子の姉がいるのではないかと訝る。そんな中、政府は「バラ色の未来」の要求を拒否する声明を発表する。隊長の聖人は人質の処刑を命じるが、紅は拒否して対立する。また、政府の方針を知って絶望に駆られた人質のうちの一人の男が、人質の女を襲おうとするが、女は持っていた携帯型爆弾で男を巻き添えにして自爆する。
人質の処刑と小型の核爆弾の使用を巡って「バラ色の未来」の中では意見が対立し、聖人は隊長の権限でこれらを行うと宣言。障碍となる紅の身柄を拘束しようと密かに画策するが、隊員の弥生の報告で事前にこれを察知した紅は、弥生達とともに逆に聖人を拘束し、自分が隊の指揮を執ることを宣言する。
一方、残った人質達は、パソコンを使って「バラ色の未来」に政府を装ったメールを送り、その隙に携帯型爆弾を使って地下に通じるエレベーターの扉を破壊。何とか地下道へと脱出する。それに気付いた「バラ色の未来」の隊員達も後を追って地下道に入るが、そこに自衛軍の特殊部隊が突入する。

コメント

 2004年は役者としての活動に専念したため、1年7ヶ月のブランクを置いての公演となった。この公演では、F2C2の座喜味さんに制作代行も兼ねて運営のお手伝いをしていただいたり、スタッフ関係でも前回の出演者の奈美さん、Cradleの柊子さんの協力を仰ぐといった直接的なものから、昨年の共演者の知り合いといった間接的なものまで、『レコンキスタ』以降の人脈をフルに活用することになった。また、この間ネットを介して知った劇団の役者さんに出演していただいたことは、『レコンキスタ』からの流れを完全に受け継ぐものであった。

 内容的には僕自身が「不惑の年代」に突入して初めてとなる公演というメモリアルな位置付けもあり、「先祖返り」を一つのテーマに掲げ、昔僕が夢中になった小劇場演劇的手法や『明るい反抗』の頃のストレートに主張をぶつけるテイストの表現方法を取ることになった。

 スタッフや一部の役者選びが難航し、最初決まっていた人が別の人に差し替わるケースが多発。また男性キャストの一人は1ヶ月前に漸く決定して合流するという、綱渡りのような状況になった。加えて、あるシーンを巡って僕と意見が対立した女性キャストを稽古初期に入れ替えるという初めての経験もした。この時、別の公演の稽古中にもかかわらず、途中参加してくれたも、『レコンキスタ』の出演者だった小林さんだった。彼女は「楽屋の母」としても活躍することになった。

 また、今回も役者は初顔合わせの人が多く、客演自体が初めてという人もいたのだが、その割には途中参加の人も含めて全員すぐに仲良くなり、作品の内容に反して稽古場は「妖怪ネタ」などで笑いが絶えず、和気藹々とした雰囲気に包まれた。特に女優陣の結束は固く、稽古場帰りの座喜味さんの車の中では毎夜‘萌えトーク’が繰り広げられ、‘萌え日記’という名の女優同士の交換日記まで存在したのである。

 内容的にはかなりシリアスでハードだった上、全編にわたって僕以外のキャスト全員が一人二役以上という設定から、本番中も舞台裏は戦争状態。また銃撃戦のシーンでは、役者が比較的奥行きのある舞台を走り回り、転がるというまさに体当たりの舞台となった。一方、場転の時間を如何に短くするか、その間を如何に繋ぐかで、キャスト・スタッフ一同は頭を悩ませた。

 お客様の反応は、いつも通り賛否両論がはっきりと分かれたが、特定の人達にとってはかなり強い印象を与えたようだ。客席ではラストシーン近くで男性も含めて泣く人が続出。久々にはっきと感動を呼ぶ作品となった。特に、映像の藍の長台詞を受けて紅が決意を述べ、去っていく幕切れは評判がよかった。この二役を演じた座喜味さんは稽古中も本番中も本気の涙を流し、それがまた客の涙を誘った。総じて自分の所属劇団では演じないタイプの役を演じた役者が多く、それぞれ反響・ダメだし等があったようだ。

さらに、この公演では久々に生歌を入れた。某大物シンガーソングライターの昔の曲を使ったため、出演者も含めて殆どの人が本歌を知らず、オリジナルだと思ったお客様も多かった。歌うには大変難しい曲で、座喜味さんと田仲さんは連日この曲を聴きながら稽古場に通い、カラオケで練習を積んでいた。結局日の目を見なかったが、幻のハモリバージョンも存在する。なお、この作品のサブタイトルは、この曲のタイトルおよび歌詞からとったものである。

 また、この公演ではチラシを見てチケットを予約してくださった一般のお客様が結構いらっしゃった。チラシのデザインや折り込みの重要さを出演者一同が再確認したものである。

 この芝居で演じた役に対する思い入れが強い人もいて、座喜味さんやの小林さんは自身のサイトで、演じた役を主人公にしたサイドストーリーをアップしている。こうして芝居が終わった後も、僕の意図を超えて役や作品がこれ程強く生き続けるのを目の当たりにするのはこれまでに経験がなく、感慨深いものがある。

 いつにも増して時間がなく条件も悪い綱渡り状態の公演だったにもかかわらず、お客様の中に強くアピールする舞台が作れたのは、参加者全員の力である。参加者同士は仲良くなり、公演が終わった後も付き合いが続いているという。これも今までにはあまりなかったことだ。

 そういうことも含めて、40代の入り口でいい仲間達と出会い、この芝居が打てたことは、僕にとっては本当に大きな成果であり、印象深く、忘れがたい公演となった。