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echo chamber~もうひとつの事実、不都合な真実~

echo chamber~もうひとつの事実、不都合な真実~(番外公演vol.9)

echo chamber~もうひとつの事実、不都合な真実~(番外公演vol.9)


2017年9月21日~24日  シアターシャイン

【作・演出】

息吹肇

【CAST】

  • 椎名恭子(アミティープロモーション)
  • 柳真琴(DiamondRush)
  • 鈴井七絵
  • 町田毅
  • 加藤美帆
  • 谷内田楓(大和プロ)
  • 長谷川栞
  • 坂元瑛美
  • 堺谷典之
  • 大久保龍(旋風計画)
  • 瀧航大(ダブルフォックス)
  • 長紀榮
  • 山田貴之
  • 松坂南(ジェミーロード)
  • 西村守正

あらすじ

地下アイドルグループ「姫色ヴィーナス」のリーダー・香坂えりかに「偽者」疑惑が持ち上がる。「本人」と名指しされた二宮美夢には、全く心当たりがない。えりかの恋人・来栖雅人やグループのメンバー・涼宮あやの達が真相を探ると、謎は2人の複雑な生い立ちに関係があるようなのだが、情報は錯綜する。
そして浮かび上がる新興宗教団体の教祖とえりかの血の繋がらない姉の存在。
果たして本当の「事実」はどこにあるのか。そして、明らかになる「不都合な真実」とは?

DVD販売中

コメント

2016年4月の「Fairy Melody~私はピアノ~」以来となる番外公演。それまで番外公演は、ライブハウスや画廊といった劇場以外での、比較的短時間の企画公演を指していた。しかし、この公演は普通の小劇場で行った。第9回本公演以降、小劇場で活躍する役者以外を出演者に迎え、小劇場でも比較的広めの劇場で公演を行っていた。この範疇に入らないということで、敢えて番外公演と銘打ったのである。キャストも、基本的には小劇場のみで活動する人達に絞った。
内容面でも、本公演では正面切って取り上げないような現代社会特有の問題をストレートに扱い、ダークな印象の舞台にした。FBIの表と裏が見せられればいいと思ったのである。

キャストは、FBIの常連である椎名恭子さん(きょうちゃん)、長紀榮君(のり君)、山田貴之君、加藤美帆さん(みほてん)、西村守正さん、それに「Singularity Crash」出演者の坂元瑛美さん、「【劇場版】Fairy Melody」から連続の堺谷典之君に加え、オファーとオーディションで集まってもらった。当初の構想にあった主人公の母親役は、オーディション合格者が辞退して、他の人が見付からずにカットされた。この年齢層の役者の層の薄さを改めて思い知らされた。だから、今回初めて声をかけた松坂南さんは非常に貴重な存在であった。
そして、非常に異例のことであるが、主役のきょうちゃんが他の舞台のため1ヶ月にわたって東京を離れ、まったく稽古に参加できなかった。普通は出演してもらうのは難しい状況だったが、あの役ができる人が他に思い付かなかったので、無理を承知でお願いしたのである。僕の勝手な判断だったが、主役不在の稽古期間は、対の役になる柳真琴さんが主に代役を務めた。彼女自身の役も重かったので、彼女にも他の人にもかなり苦労をかけてしまったと思う。

前回公演からの期間が短かかったこともあり、脚本が遅れてしまい、稽古初日に完成していなかった。稽古と脚本執筆が同時並行するのは10年ぶりであった。また、この公演では初めて正式に「演出助手」についてもらった。出演者ののり君が兼ねてくれたのである。この作品も例に漏れず転換が多かったため、誰が何をどこに動かすか等の交通整理はほぼのり君がやってくれた。また、たっつぁんこと大久保君も、香盤表やNG表の作成等の演助の仕事を自発的にやってくれた。この2人の力がなかったらもっと大変なことになっていただろう。ひたすら感謝である。
また、この作品にはアクションシーンとも言えるものがあった。その指導には山田君とたっつぁんがあたった。リアルに、そして格好よく見せるために、何度も何度も稽古した。アクションに不慣れな役者が殆どで、最後まで苦戦していたが、みんな休憩時間中も自主練をするなど、かなり頑張ってくれた。

この作品ではFBIの売りになる歌とダンスが復活した。地下アイドルグループがメインの話なので、当然地下アイドルのライブシーンがあり、ここにオリジナルの劇中歌を使用した。作曲はいつも歌唱指導をお願いしている山本さんがして下さり、作詞は出演者の松坂さんだった。彼女は実際に仕事で作詞を手がけており、地下アイドルを演じる役者の演技や雰囲気を観察し、それを元に彼女達に合う詞を作って下さった。できあがった曲は、正統派アイドルの曲の空気感を持ったものになった。地下アイドルの1人を演じた谷内田さんは、実際に地下アイドルとして活動していたので、彼女の伝手で振付師さんを頼み、まさにアイドルという可愛らしい振りがついたのである。
この劇中アイドルグループ「姫色ヴィーナス」のライブシーンは好評で、本番では客席から手拍子がきた。これはFBIでは初めてのことであった。(DVD収録時にはかけ声をかけてくれたお客様もいらっしゃった。)「再結成」を求める声や劇中歌CDの販売の要望もあったくらいである。きょうちゃん、谷内田さん、そして柳さんの可愛らしさにみほてんの格好良さが加わった絶妙のバランスがよかったのだと思う。

ストーリー的には非常に重く、実際の会話よりもSNS上のつぶやき=1人台詞に近いものが多かったのもこの作品の特徴である。特にたっつぁん演じたアイドルオタク役は、本当に最後まで誰かとのまともな会話がない、すなわち相手役がいないという結構難しい役どころだったが、たっつぁんは見事に演じて注目度も高かった。
そして、若手が多いこの芝居の中で「大人」のパートを担ったのが松坂さんと西村さんだった。2人には舞台では珍しい濃厚なキスシーンがあったが、見事にこなしてくれた。西村さんは、稽古中は自分の娘役の柳さんを本当の娘のように思っていたという。松坂さんは新興宗教の教祖というミステリアスな役で存在感を放った。また、物語の鍵を握る役を演じた山田君は、これまでの芸歴で初という長台詞に悩まされたようだが、最後はびしっとしめてくれた。
他の役者もみな好演で、それぞれお客様に印象を残したようである。ラストシーンでは涙を流すお客様もいらっしゃった。
しかし、やはり実質10日あるかないかで役を仕上げた主役のきょうちゃんには頭が下がる。不安を抱えながらも、最後までベストを尽くして取り組んでくれて、きちんと形にしたのはさすがにプロだと思った。

公演期間中に、みほてんの誕生日があり、ダンス稽古の最中にサプライズでケーキを渡した。彼女が涙と鼻水の洪水に襲われたのはいうまでもない。

全員がこの作品を完成させようと全力を傾けてくれて、お客様からの評判も予想を超えてよかった。メジャー感がないし、重苦しく、決して分かりやすいとはいえない内容だったので、こんなに手応えがあるとは正直思っていなかった。今までの僕の作品の中で一番面白かったと言ってくれた人もいたくらいである。ひとえにキャスト・スタッフの力が結集された結果である。
同時に、異なるバックボーンを持つ人達が集まったことで、それぞれの流儀の違いや意識の持ち方の差がはっきり出てしまった公演でもあった。ユニットというスタイルの負の部分が顕著に現れたともいえる。これは今後の課題である。観客動員もあまりできなかた。

様々な発見があり、やった意義はあったと思うが、FBIがマイナーなイメージに戻ってしまう危険性があったことも事実だし、上記のような問題点が出てきたのは、小劇場での活動が中心になっている役者しか出演していなかったことも大きかったと僕は分析している。
そういったことも含めて、もうFBIとしてはキャパ50以下の劇場では決してやらないと固く誓った公演だった。今後暫くは番外公演は行わないことになるだろう。
その意味では、FBIとしてのある種の転換点となるであろう公演となった。

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