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息吹肇のHajime-Mind-map

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2015年2月6日~8日
新中野ワニズホール

【作・演出】息吹肇

【CAST】
「Day Dream Believer~夢のまにまに~」

  • 栗山直也:作能太一(演劇ユニットAny)
  • 水野香奈恵:小谷陽子(製作委員会)
  • このは:原野南美(青山学院大学演劇研究会)
  • 女:中西みなみ

「Retweet~夢から出た言葉(まこと)~」

  • 一色小夜子:鞠みちえ
  • 山城芳樹:瀧啓祐(リーディングカンパニーくらじぇむ/こわっぱちゃん家)
  • 山城舞:窪田ゆうり
  • 女:長谷川彩子
DVD販売中

あらすじ

「Day Dream Believer~夢のまにまに~」

上司の失敗の責任を取らされ、会社を懲戒解雇された直也は、不眠症に悩まされる。婚約者の香奈恵にも本当のことが言えない。その香奈恵は、直也が自分に本当の姿を見せてくれていないのではと常々悩んでいた。
そんな時、直也は、たまたまネットで知り合った、悲しい過去を持つ大学生・このはから、海外で活動するテロ組織に自分と一緒に戦闘員として加わらないか、と誘われる。心が傾きかけた直也の夢の中に、1人の女が現れ、直也に本当の自分を受け入れるようにと言う。
直也はこのはを引き留め、2人で新しい暮らしを始め、香奈恵との関係を清算することを決意する。そんな直也を、このはは自分の夢の中に閉じ込め、本当に望む道に進もうとしながらも直也を求める香奈恵を排除して、2人だけの世界を作ろうとする。
が、そこに女が現れ、2人に意外な事実を告げる。

「Retweet~夢から出た言葉(まこと)~」

派遣で働きながら小説家を目指す小夜子。仕事はパッとせず、小説も書けなくなり、スランプに陥っている。夜な夜なチェックするのは、昔の知り合いの舞のツイッター。舞は、小夜子の恋人だった芳樹と結婚していた。幸せな結婚生活をツイートする舞に、小夜子は嫉妬しながらも、気になってフォローをやめられない。
ある日、舞は以前貰った小夜子の書きかけの小説を見付ける。舞は、小説のラストシーンを書き加え、雑誌の賞に応募し、優秀賞を受賞する。舞は小説を芳樹に見せるが、芳樹はそれが小夜子の文体だと気付く。
いつものようにTwitterをやりながら眠ってしまった小夜子の夢枕に、見知らぬ女が立つ。女は、小夜子に書きかけの小説を思い出させる。
夢の世界と小説の世界が交錯する中、小夜子は舞と運命を入れ替え、芳樹との幸せを手にしたかに見えたが…

コメント

これは当初、ある劇団とのコラボ公演として企画された。2014年9月に「ゲキミックス!」でお世話になった新中野ワニズホール主催の「1人のディレクター(作・演出)で、登場人物4人以内、上演時間45分以内の作品2本立て」という企画公演のパッケージ(「ディレクターシステム」)があったので、それを利用することになった。ところが、事前準備の段階で相手の劇団が降りてしまった。この企画のままやるのか、そもそも公演自体をやるのか否か、随分と迷ったが、結局FBIが単独で上演することになった。それでもディレクターシステムで行うことに変わりがなかったため、初めてワニズで冠公演を打つ形になった。「息吹肇のHajime-Mind-map」というのがその公演名である。
このシステムを使うと、いろいろ制約はあるものの、稽古場にワニズが使えたりするなどメリットも大きい。低予算で気軽に公演を打つにはいいシステムではないかと思った。

 当初は1作品のみ(「Day Dream Believer」)の筈だったため、2作目の構想と執筆に手間取り、稽古開始時点で「Retweet」はまったく脚本がないという状態だった。
毎度のことだが、出演者探しもかなり苦労した。最初に「Noisy Gallery」の出演者から陽子さんとみなみさんが決まった。みなみさんは、この本番の直前まで別の舞台に出演することが決まっていたが、無理を言って出てもらうことになった。そして、陽子さんの伝手で作能君が、作君の知り合いでゆうりさんが、milkyさんの公演の出演者で前々から声をかけていった瀧君の出演が決まった。それ以外の3人(鞠さん、長谷川さん、原野さん)はネットを通じて出会ったのだが、その中でもある意味異色の出会いが長谷川さん(あやさん)。僕が出演者募集のツイートをしたところ、それをワニズのリツイートによって知ったあやさんがふぁぼり、それを知った僕がTwitterのDMであやさんに声をかけて決まった。あやさんはこれを「息吹さんにTwitterでナンパされた」と表現していた。CoRichで応募してきた原野さんことはっちゃんは18歳の現役女子大生(公演当時)。第6回公演のいっちゃんの19歳(当時)を抜いて、これまでで最年少の出演者となった。本人が稽古開始直後に「大した18ではありません」と発言したことから、これがこのチームではっちゃんを表す言葉になった。

 8人中6人がFBI初出演の上、舞台経験もまちまち。しかも、それぞれが仕事等の都合があり、稽古場に全員が揃わない日も多かった。特に「Day Dream Believer」の4人は、稽古最終盤まで見事にすれ違ったままだった。FBI初の年をまたいだ稽古になったが、実質的な稽古は1月に入ってから始まったといってもいい状況だった。
しかし、始まってみると、初対面の人が多いとは思えない団結力を発揮。主にあやさんやゆうりさんがムードメーカーになって、稽古場は和気藹々とした雰囲気で盛り上がっていた。あやさんが布教(?)したすみっコぐらしや「ぎゅうひ」問題は稽古場を賑わせた。また、関西出身の作君は、真面目なシーンの稽古中にもネタをどんどん突っ込み、「欲しがりさん」として共演者を爆笑と混乱に陥れた。特に多く被害に遭ったのはみなみさんだった。この作君の予測不能なリアクションをもとものせずに受け止めて対応していたのは、「芝居の主」の陽子さんただ1人であった。

 今作では、久し振りにダンスと歌を入れた。
「Day Dream Believer」の2カ所のダンスは、もともとPerfumeの振りがあり、それを振り付け担当のマーガレットさんが一部アレンジして下さった。振りの難易度が高く、短期間でマスターしなければならなかった3人は大変だったと思う。また、歌は両方の作品に入り、某大ものアーティストの曲、およびそのアーティストの某週末アイドルグループへの提供曲である。これもそれなりに難しい曲だったので、Lynks Projectの山本さんに歌唱指導をお願いした。その両方に関わって苦しんだのはみなみさんだった。
歌絡みでいうと、僕としては、「Retweet」で女が歌いながら小夜子と絡むシーンが一番のお気に入りだった。某大ものアーティストの「夜会」をイメージしたシーンだったが、面白く仕上がったと思う。
さらに、超久々に衣装らしい衣装が登場。今回は初めて元PPCのさりーさんにお願いした。とても幻想的で素敵な衣装だったが、陽子さんが着ると何故か今いくよ・くるよに見えてしまった。人徳であろう。

 今作では久々に時事的なタームを導入。そのため、稽古終盤で台詞を変更しなければならない「事件」も起こった。また、「1作品45分以内」という制限時間が守れず、台詞をカットしてもトータルで1時間45分くらいになってしまった。

 役者は皆好演。
「Day Dream Believer」では、稽古場のあの姿が嘘のように主役の勤めを立派に果たしてくれた美声の作君、18歳とは思えない落ち着いた演技と舞台度胸を見せたはっちゃん、「Noisy Gallery」とは打って変わって真面目な役を安定した演技でこなした陽子さん、実質2週間とちょっとで長ゼリ、ダンス、歌の3点セットをいっぱいいっぱいになりながらもやり遂げたみなみさんが頑張った。
「Retweet」では、急ピッチで役を仕上げ、誰よりもインパクトと存在感のある演技を披露した鞠さん、イケメンなだけではなく、確かな演技力と表現力をいかんなく発揮してくれた花も実もある瀧君、その恵まれたビジュアルを生かしつつ、起伏の激しい難役に果敢に挑んでくれたゆうりさん(瀧君との「夫婦」は、まるで往年のトレンディドラマの趣があった)、ブルースシンガーのようなパワフルな歌声と明るいキャラで芝居を盛り上げてくれたあやさんが劇的世界を彩った。
1人1人に対して詳しくコメントを書くと長くなりすぎてしまうので割愛するが、アンケート等で名前が挙がっていたのは、小夜子役の鞠さんと、「Day Dream Believer」の女役のみなみさんだった。
みなみさんは、「Noisy Gallery」のはっちゃけた役から一転、凜々しさと静謐さ、優しさを要求される役で、しかも歌もダンスもこなさなければならなかったが、舞台では初めて使ったという透明感のある声質と、ダンスで見せる身体の切れのよさが注目された。ビジュアルの美しさとも相まって、「ファン」になった人や、本物のアイドルかタレントだと思った人もいたほどである。「Noisy Gallery」と同じ役だと分からなかった人もいた。本人は最後まで必死だったので気の毒なことをしたと思うが、それでも出てもらって本当によかったと思っている。女の役は彼女でなければできなかった。感謝である。
鞠さんは、僕の芝居は今回が初めてとは思えないほど作品の世界観にぴったりとはまった。小夜子の役は、作品1本背負わなければならないのは勿論、前半のコミカルな面と、後半のシリアスかつ繊細な部分の両方に対応しなければならないが、鞠さんは見事に演じた。細かいところまで神経が行き渡った演技や、稽古や本番の度に微妙に台詞のいい方を変えてくるところなど、女優としてのキャリアとキャパシティの大きさを感じさせた。彼女の表現力によって、小夜子の役は僕の想像の何倍も魅力的で深いものになった。また、もともと作・演出をしていたというだけあって、小夜子役の台詞のカットに的確な案をもってきていただいた。いろいろな意味で、本当に魅力的な女優さんである。僕自身、かなり助けられたと思っている。彼女に出会えたことも、この公演で得た大きな収穫のひとつであった。

 お客様の評価は今回も分かれたが、アンケートでは概ね好評だったようである。80年代の小劇場テイストが、今の観客には新鮮に映ったようで、そういう感想がいくつもあった。稽古で泣いていなかったところで役者が泣き始め、それがお客様の涙を誘ったりもした。
もっと広い空間でやるべきだったのではという意見も多く聞いた。今回は「ワニズホールの限界に挑戦する」ということで、普段はワニズではやらないようなことをやってみたのだが、やはり限界はあった。ただ、その条件の中ではやり切った感はある。この点ではスタッフさんの力量と頑張りも大きかった。

 もともと予定にはなく、急遽決まった割には、いろいろと得るものが多かった公演だった。素敵な役者ともたくさん出会えたし、久し振りの作・演出は、苦しいことも多かったが、総じて言えば楽しかった。これをやり切ったことは、この先のことを考えれば大きいと思っている。そして、個人的には、これが不惑の年代最後の芝居となった。この作品で締め括れたのはよかったと思う。
いろいろな意味で、これも決して忘れられない公演である。

 なお、今回もツルギさんによる公演PVが制作された。参加できなかった出演者もいたが、みな個性的だったので、前回にも増して面白いものになっている。特に、あやさんの雪見だいふくと、ゆうりさんのガッツリいった物真似、そして「カウントダウンTV」もどきの部分が見所である。このメンバーの雰囲気がよく表れた楽しい映像であった。