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Noisy Gallery~絵は口ほどに~

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Noisy Gallery~絵は口ほどに~

2014年9月5日・7日・8日・12日・14日
新中野ワニズホール

第8回True Love~愛玩人形のうた~【作】息吹肇
【演出】小塚ツルギ


【CAST】

  • 雨宮有紀:さくら
  • 相良夏美:中西みなみ(チームからふる!)
  • 保志泉:小谷陽子(製作委員会)

映像

あらすじ

個展を開くと友人に宣言しながら結局開けなかったOL・有紀。そうとは知らず、個展の予定日当日に画廊に押しかけた有紀の友人で編集者の夏美は、有紀を喜ばせようと、たまたま画廊にいた一人の女・泉を有紀の絵のファンに仕立て上げ、有紀に画廊に飾られた一枚の絵の内容を説明しろと迫る。困った有紀は、二人の前で、口から出任せで一つの物語をでっち上げるが、実は泉はその絵を描いた張本人だった。

コメント 

 FBIとしては2年ぶりとなる公演。2011年の「ふたり芝居」でワニズホールにお世話になった際、別の芝居に出演していた坪和あさ美さん(劇団milquetoast+劇団員、当時はフリー)からお話をいただき、急遽決まった。milquetoast+さんの企画公演「ゲキミックス!」への参加という形だったが、これは、milquetoast+さんの他に、FBIを含めて4団体が参加し、45分以内・キャスト4人以内の作品を、他団体との2本立てて上演するというものだった。milquetoast+さんは4チームに分かれ、FBIはその全てのチームと組むことになった(最終日のみ別団体と組んだ)。

 上演まであまり期間がなく、新作を書く時間がなかったため、この企画に合った脚本ということでこの作品の上演を決めた。初演は2005年だが、「はりこのトラの穴」の僕の脚本の中でもダウンロード数が多く、これまで他団体で何度も上演されている(今年の4月にも上演されたばかりだ)。FBIでは再演したことがなかったので、いい機会だと思った。改訂の必要はないと判断し、台詞はほぼ初演のままとした。FBIでの過去作品の再演は「癒されない女(ひと)」があるが、この時は脚本の一部を改訂しており、ここまで「純粋」な再演は初めての経験である。

 また、今回は演出を小塚ツルギさんにお願いした。この時期、息吹の予定がはっきりしていなかったため、稽古に支障を来さないようにという必要性からと、他人に演出を任せることで、自分の作品がどのように変化するのかを見たかったという両方の理由からであった。ツルギさんは前から僕の芝居を見てくれていたので、その点でも安心であった。キャスト決定から関わってもらい、途中いろいろ話し合いながら芝居作りを進められたので、僕としては大いに助かった。6月のmilkyさんと違い、稽古場で他人の演出を見ることができたので、何かと勉強になった。

 前回の公演から2年空いていたため、役者との関係が切れていて、キャスト探しには苦労した。mixiで探したりもして、一時ダブルキャストの話もあったが、結局ツルギさんの伝手で陽子さん、milkyさんの「True Love」出演者で僕が声をかけたみなみさん、そしてmilquetoast+さんからの紹介のさくらさんで落ち着いた。結果的にベストの組み合わせになったと思う。キャスティングも割とあっさりと決まった。
稽古の回数は最終日の小屋稽古を合わせて10回ほどと少なく、長台詞の多い有紀役のさくらさんと、その有紀にちょくちょく突っ込むため意外と台詞量が多いみなみさんが、特に苦しんだようであった。ただ、ツルギさんがコメディ色を出すことに重点を置いたため、稽古場は概ね和気藹々と楽しい雰囲気だった。終盤、役者の調子が落ちた日があり、ツルギさんは頭を抱えたのだが、稽古最終日に、ある公共施設の和室で通し稽古をしたところ、その日のできがそれまでで最高だったため、ツルギさんが「タタミ女優」と命名したということもあった。

 今回の公演は5日間6ステと、FBI史上最長の公演期間であった。ただ、日にちが連続していないという変則的な日程だったこともあり、役者はコンディションを維持するのが大変だったようである。特に、台詞が飛ばないようにするために、いろいろと工夫があったようだ。また、毎日小屋入りをする度に、気になる部分を返す等して、感覚が鈍らないようにしていた。
それでも、これだけ回数と日数があると、舞台の出来にある程度の差が出るのはやむを得ない。お客さんの反応も毎回違うので、それに影響される部分もある。この「ゲキミックス!」の初日の初っぱながFBIだったのだが、その回の時、有紀の台詞で一瞬舞台が止まる「事故」が3回にわたって起きた。本人も含めて一同青ざめたものだが、このような大きなアクシデントはこれ1回のみであった。公開ゲネの日で本当によかったとつくづく思う。

 役者が変わり、空間が変わり、演出が変わると、芝居の雰囲気も演技も大きく変わるものである。初演に比べて間口が広くなったこともあり、3人がより動けることになったのだが、そのことによって一番変化したのが泉の役だった。初演では本当のラストまで存在感が薄い泉役だったが、陽子さんはこの役をかなりエキセントリックに表現。ツルギさんに「芝居の主」と言わしめた小劇場での経験を生かした大胆な(?)演技の作り方で、「芝居通は泉を見る」と言われた。ただ、あまりの個性的な表現故に賛否があったようである。
有紀は、初演とは打って変わってかなりどっしりと落ち着いた印象になった。さくらさんの演技の特性からそうなったのだが、有紀の長ぜりの部分では、この安定した演技と陽子さんの動きがセットになって笑いを誘っていた。さくらさんは、ツルギさんの演出を受けるとそれをすぐにアウトプットし、その吸収力から「スポンジみたいな人」とツルギさんは言っていた。
しかし、この芝居で一番目を引いたのは、何といっても夏美役のみなみさんであろう。この種の役をやったことがないとは思えないはまり方で、ストーリーを引っ張る役目を見事に果たした。夏美の演技は随所で笑いを誘っていたが、初演では殆ど目立たなかった「謝りなさいよ、この人に謝りなさい!」という台詞が最もウケるポイントになっていて、演出家のツボにもはまっていた程である。
全体としてみると、初演では有紀(=座喜味さん)を見せる芝居という性格が強かったのに対して、今回は夏美がまわりを引っかき回す印象が強い芝居になっていた。観劇した僕の知り合いも、夏美が主役だと思ったようである。
実際、この公演で一緒にやった別の団体の出演者の劇団関係者が、みなみさんを目にとめ、その劇団の公演への出演が決まったという。

 2本立て公演というと、どうしても同時上演した団体との比較で評価されることは避けられない。得に今回は、milquetoast+さんという若手の劇団と組み、なおかつFBIが先に上演するケースが殆どだったことから、作品の性格の違いから、骨太でインパクトの強いmilquetoast+さんの芝居の印象がお客さんに強く残る結果となった。後でアンケートをざっと見せてもらった限りでは、それでも僕達の芝居は楽しんでもらえていたようではあったが、やはり評価という意味ではmilquetoast+さんの方が高くなる傾向にあった。率直にいって、残念な結果だった。
場面転換もなく、1枚の絵だけを使い、女優3人で最後まで展開させる僕達の作品は、演劇的にはかなり高度なことをしていたと思うが、そのことを理解してくれたのはごく少数の人達だけだった。この種の企画では、芝居の性質と順番は大切だと実感した。事実、最終日はmilquetoast+さん以外の団体さんの後に上演する組み合わせだったが、客席で見ていて全く印象が違っていた。今後、このような企画に参加する際の教訓としたい。
とはいえ、こうして改めて他の団体の芝居と並べてみることで、見えてくることや学ぶこともある。お客さんとっても面白い体験だと思う。そこがこの企画の意義といえよう。

 初演の画廊での会話劇が、年を経て劇場でのコメディに生まれ変わり、形になったのは感慨深い。自分の脚本のポテンシャルに気付くことができたと同時に、他の人の演出を見ることで、逆に自分が何がしたかったのかが分かってくるということがあった。
芝居作りの難しさ、面白さに改めて気付くことができたという意味でも、極めて有意義な公演だったと思う。

 ところで、今回の公演を、初演の出演者は誰も見ていない。スケジュール等の関係で見に来てもらえなかったのだが、どんな感想を持ったのか、是非聞いてみたかったところである。

 なお、この公演では、「ゲキミックス!」特設サイトに載せるために、PVを初めて作成した。ツルギさんの手になるものだが、他の団体さんと比べても出色の出来だったと思う。これも面白い経験だった。
また、FBIは出演者が全員「美人」だったという評価(?)をいただいたことも、ここに明記しておきたい。