Favorite Banana Indians

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スキゾフレニック・ツーリズム
~迎え人はアリアを歌う~

エーテルコードのフライヤー
エーテルコードのフライヤー


2018年9月27日~30日 シアターKASSAI
○第30回池袋演劇祭参加作品

【作・演出】

息吹肇

【CAST】

・山岸万理菜(なないろ)
・中澤隆範(劇団ヨロタミ)
・天月ミク(アミュレート)
・山下恵那(アークプロダクション)
・飯原優
・たはらひろや(±0)
・奈実子
・樋郡めぐみ
・アカネ
・渡邉美友
・春摘らむ
・宗像将史(no_border project)
・白星由希奈(Favorite Banana Indians)

あらすじ

ツアーコンダクターの千尋の家に、婚約者を名乗る隼人という男が訪ねてくる。妹の陽菜と夏菜は普通に接しているが、千尋は男に全く覚えがない。隼人は千尋の引率で港のツアーへ行くのだと言い、ツアーの客と名乗る人物達が集まってくる。だが、客の中にこっそり紛れ込んでいた恋人の俊哉は、隼人達は暗殺者であり、自分は千尋を守るために来たと告げる。そして辿り着いた「鏡の洞窟」で、客達の正体が明かされ、千尋の抜け落ちていた時間が蘇る。
千尋が冒されていた病とは?
そして、千尋が犯した罪とは?
千尋に手を差し伸べる「迎え人」は誰なのか?
ヒューマンドラマとファンタジーが奏でる「心」の物語(アリア)。

スキゾフレニック・ツーリズム~迎え人はアリアを歌う~
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コメント

ずっと前から、何かの演劇祭に参加することを考えていた。ただ、いつ、どこで演劇祭が行われるのかの情報を掴み切れていなかったことと、タイミングが合わなかったことで、参加できていなかったのだ。「池袋演劇祭」は毎年9月に開催されているのを知っていたので、この年はタイミングとしてはちょうどよく、参加することにした。演劇祭に参加するとなると、当然「賞」を意識するものだが、敢えて賞を取るのは難しいであろう題材で挑んだ。「スキゾフレニア」=統合失調症は、前々から気になっていていろいろ調べたり、本を読んだりして情報を収集していたものだ。
また、作品のテイストをFBIの方向性であるエンタメ路線(=ダンス・殺陣・歌あり)を第11回本公演「エーテルコード」よりも強く出すことを目指した。そのことで、話が重くなりすぎないようにすることが狙いだった。

この方針に基づき、主役はやはりアイドルまたはその出身者から選ぼうと考えた。スケジュールが合わずに断られた人もいたが、最終的には業務提携先である(株)なないろに所属していた(上演当時、現在はフリー)山岸万理菜さんにお願いすることにした。彼女は、劇団東俳の出身だったので芝居の心得はあったし、元アイドルということでライブで歌っていたため、適役だと考えた。また、えなたんこと山下恵那さんは、知り合いの舞台を見に行った時に出演していたのを見て、オファーした。彼女は稽古に入る前に、配信番組「FBIが配信しちゃうよ!」にゲストで出演してもらってもいる。
「エーテルコード」から続いての出演者も多かったが、このうち、主人公の相手役のたかさんこと中澤隆範君は、何とこちらの本番の1週間前に別の本番があり、そちらも池袋演劇祭の参加作品だった。並の役者なら出演は難しいところだが、彼なら大丈夫だろうという読みが僕にはあったし、その条件でできるように脚本を書くこともできたので、無理を承知でお願いしたのである。結果的に彼が出演してくれたお陰で、作品のクオリティが上がった。本当に感謝している。また、オーディションを今回も行ったが、アカネちゃんとえなたんがかつて組んで活動していたというのは後で知った。いい顔触れが集まったと思う。
そして、FBIメンバーであるしらゆきこと白星由希奈にとって、この作品が舞台デビューであった。通常であれば、初舞台の役者にはふらないような、ポイントになる役に敢えて挑んでもらうことにした。これは、彼女がメンバーだからという理由の他に、レイヤーとしての魅力と存在感を活かせる役をやって欲しいと思ったからである。役柄上、どうしても殺陣初心者の彼女が中心になって殺陣をやらなくてはならなかったのだが、乗り越えてもらうしかないと思った。

いざ稽古が始まってみると、事前の予想通り、みんなの予定が合わなかった。遅く合流してくる人もいたし、他の稽古と同時進行という人もいた。しらゆきは社会人になり、休みの日も限られていた。こうした事情から、代役が多くなったり、殺陣・ダンスでメンバーが揃わなかったりと、なかなか苦労が多かった。特に、殺陣は全員揃わなければ無理な部分も多く、その上殆どが初心者だったので、最後の方で時間をかなり割いて詰めた。俊哉役の優君が殺陣リーダーとなって頑張ってくれたのと、殺陣指導の無銘鍛冶さんが踏ん張って下さったので、最終的には何とか形になったという感じだ。シーンの稽古も、なかなか相手役とできずに大変だった人もいたのだが、全員の力で乗り切った。

この脚本は、現実と主人公(患者)から見える世界が渾然一体となった作りになっているので、演じる方も「今、このシーンは現実?」「この人は実在する誰に当たるの?」など、その場その場でしっかりと確認しながら稽古を進めていった。しかし、お客様を完全に混乱させてもいけないので、実際の世界は舞台の上段、妄想の世界は下段に分け、たかさんと優君が鏡になった動きをしたり、台詞を入れ替えたりといった工夫をした。時間は限られていたものの、様々なやり方を試したり、役の新しい解釈を生み出したりと、なかなか充実した稽古だった。

池袋演劇祭には「CM大会」というものがあり、この年は8月23日にサンシャインシティの噴水広場で行われた。

池袋演劇祭CM大会映像


演劇祭の参加団体が2分以内で作品を紹介するイベントである。専用のダイジェスト版のような脚本を用意して臨んだ。作品の雰囲気と空間がマッチしていなかったこともあってか、何の賞もいただけなかったが、「女性が剣を持っているとゾクッとしますね」という司会者のコメントを引き出した。これは貴重な経験だった。

そして、何故かこの公演では故障者が続出。らむちゃんは腰を痛めていて、出演が危ぶまれたくらいである。ダンスメンバーからは外したが、本人の希望もあり、殺陣は何手かつけてもらった。えなたんは足を痛め、小屋入りまで引きずったが、本番の舞台ではおくびにも出さなかった。

本番前日の場当たりで初めて全キャストが揃うというとんでもない状況だったが、本番になると皆のテンションも上がり、舞台もこなれていった。例によって評価は別れたものの、一番恐れていた「リアリティがない」「病気に対する誤解を招く」といった批判はなく、むしろ非常にリアルだったという意見が多くあって、安心すると同時に嬉しかった。ダンスシーンの振付は、今回も桑原彩音さんにお願いしたのだが、少人数でちょっと象徴的な動きのものと、大人数でアイドルショーと見紛うエンタメ色満載のものの2種類を入れた。みくぽむこと天月ミクさんは彩音さんから「1月から凄く進歩した」と褒められたというが、本人にはあまり自覚がなかったようだ。
稽古量の一番少なかったたかさんは、しっかりと主役の万里菜ちゃんの相手役の存在感を見せ、さすがの貫禄であった。その万里菜ちゃんは、患者さんの心と身体のリアルな動きを表現していると、実際に患者さんに接したことのあるお医者さん(お客様)からも評価される渾身の演技で、初の主演の務めを果たし、お客様に強い印象を残した。また、万里菜ちゃんとデュエットするシーンのあるらむちゃんは、その歌声が高く評価された。めぐみちゃんは色っぽい声が印象的だったし、みゆちゃんは完全飛び道具になっていた。優君の好青年ぶりと、みくぽむの陰りのある演技もよかった。この座組は、声のいい人が多かったように思われる。
そして、しらゆきは稽古量と経験が少ない中でも、精一杯のパフォーマンスができたと思う(ハプニングもあったが)。他の役者とは異質な存在感が、役のそれとマッチしていた。(残念ながら、現在は活動休止中である。)
役者が精神的にリフレッシュするためか、毎日マチネとソワレの間には、舞台上で優君とひろやんの「嵐」ならぬ「そよ風」のステージ(?)があり、音響さん、照明さんも付き合って下さって、皆で盛り上がっていた。

今回の舞台は、ローホリが効果的だったことと、照明の美しさが印象的だった。なお、殺陣オペを務めてくれたみこっちゃんこと田代命君は、この作品の世界観が気に入ったということで、2019年の第13回本公演のオーディションを受け、実際に出演することになったのである。

池袋演劇祭には審査員(公募で選ばれた一般のお客様)がいて、後でアンケートが送られてきたのだが、予想通り、いや、それ以上の酷評だった。少々堪えたが、他のお客様の評価は決して低くはなかったので、この演劇祭とFBIの作品の色が合わない、もっとはっきりいえば、審査員の好みではなかったのだと理解した。そして、案の定、何の賞もいただけなかった。今後池袋演劇祭に参加するつもりはない。

公演最終日に台風が首都圏を直撃。山手線などJRが夜20時以降運転を取りやめるという情報が、マチネ開演の直前に入った。スタッフで協議した結果、開場・開演を15分早めることにした。当然ソワレにキャンセルがかなり出たが、それでも予想以上に多くの方が来て下さり、出演者も僕も大いに感激した。本当に有り難いことである。

実に多くの困難があり、どうなることかと思った時期もあったが、皆が歯を食いしばって頑張ってくれたお陰で、これまでとは違った、いい感じに尖った作品になった。決してメジャーではないが、内にこもってもいないし啓蒙臭もない、FBIにしかできない作品であるといえる。これが作れた意味は大きく、非常に印象深い舞台になった。

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