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Mirage Hotel ver.2007

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第7回 Mirage Hotel ver.2007

2007年12月21日~23日 pit北/区域

【 作・演出 】息吹肇
【 CAST 】
■ 藤堂友香:窪田智美
■ 藤堂沙恵:野本由布子(メインキャスト)
■ 藤堂龍之介/虎之介:北澤孝純
■ ホテルの従業員1:山田哲朗(アポロ5)
■ ホテルの従業員2:加治屋司(劇団あいしてる!!)
■ ホテルの支配人:小川友子

DVD販売中

あらすじ

大企業・藤堂グループ副社長夫人の友香は、義姉である沙恵と旅行中に、天候の急変で交通機関が止まり、急遽宿を探す羽目になった。彷徨っているうちに、古びたホテルの前に辿り着く。
薄気味悪がりながらもそこに泊まることにした彼女達だったが、その夜、沙恵が入浴中に謎の溺死。逃げるようにそこを去ろうとした友香は、そのホテルの従業員に襲われ、命を奪われる。

 ところが、死んだと思った彼女は宿を探していた場所で意識を取り戻す。そして再び沙恵とともにそのホテルに泊まり、同じことが繰り返される。

 3回目の円環の時、友香は一人の男に救われ、彼の部屋に逃げ込む。男は藤堂龍之介と名乗り、自分もホテルに閉じ込められていると話す。そして、かれが出会ったホテルの支配人は、このホテルの宿泊者は全てある作家の小説の登場人物であり、作家の存在を消さない限りこの円環から抜け出せないのだという。
2人は部屋を出て、立ちはだかる従業員達の攻撃をかわしながら、力を合わせて何とか円環を抜け出そうとする。

実はこの男は、友香の夫である虎之助の双子の兄だった。しかし、友香からその記憶は抜き取られていた。そして、彼こそが作者の分身だった。
いつか龍之介に好意を持った友香だったが、その男を殺し、バラバラにしなければ円環は終わらないと告げられ、愕然とする。龍之介は、友香のために命を差し出し、自害した刃物を友香に握らせる。彼女は、泣きながら男の死体を切断する。

 友香が円環から脱出して現実に戻り、判明したのは、それが龍之介自身によって仕組まれた、虎之助を殺すための計画だったということだった。父親の莫大な遺産を独り占めにしようと企んだ龍之介は、弟を殺して友香を自分の物にしようと小説を書いていた。彼の各小説は、必ず現実になると岩、話題になっていた。また龍之介は、友香がかつて虎之助に出会う前に会社の金を横領していた事実を掴み、強請っていたのだ。
しかし、虎之助はそれを逆手にとって、登場人物名を書き換えることで、小説の中で兄を殺したのだった。
全てがうまくいったように思えたその時、小説の中から亡霊のように蘇った沙恵が友香に襲いかかる。必死で抵抗しているうちに、友香は沙恵とすり替わった夫を殺してしまう。
そして、沙恵によって友香は事実の全て、すなわち、龍之介と沙恵を殺害したのは自分だったと言うことを思い出させられる。

 最後に、友香に残された財産だといわれた旅行鞄を開けてみると、中から友香が切断した龍之介のバラバラ死体が出てくる。血だらけの手のまま、友香は放心状態となる。

コメント

 この公演は、元々はあるインディーズアーティストさんとのコラボ公演として企画されていたが、様々な事情からFBIの本公演に変更されたものである。当初押さえていたライブハウスが使えないことが判明したため、緊急に小屋を探してもらったところ、週末が開いていたのがここだったという偶然の出会いながら、面白い空間を押さえることが出来た。

急遽新作を執筆することになったため、2006年第5回公演作品の「原型」とも言うべき脚本となった。役者選びの期間が短く、かなり苦労して集めることになり、またもやmixiも駆使して、結果的には6人中4人が初出演という形になった。ただし、のんたんこと野本さんは、第6回公演でスタッフとして参加してくれていた。

本公演では、FBIになって初めて殺陣を取り入れた。それも、日本刀対特殊武器(?)という変則的なもので、お願いした殺陣師(無銘鍛冶)さんを相当悩ませた。役者も殺陣は初めてという人も多く、稽古で全員が揃うときには必ず最初に手の確認を行っていた。

このホテルの従業員が使用した「特殊武器」は、無銘鍛冶さんに紹介していただいた小道具さんが製作。これもFBIでは初めてだったが、あの円谷プロの作り物と基本手にには同じ手法で作られただけにかなりの出来映えであった。また、最後に登場する「バラバラ死体」の生首は、殺されてしまう設定のよっしーこと北澤君の顔そっくりに仕上げられており、ラストシーンで暗い照明の中これを見詰めていなければならないへちゃこと窪田さんは、毎回泣きそうになっていた。

衣装・照明・美術・音響さんの力は大きく、独特の劇場空間と相まって、この芝居の不思議な雰囲気をよく表現してくれていた。このうち、衣装さんと照明さんは2006年版と同じ人である。制作さんに「今回はスタッフの座組がよくて助かりました」と打ち上げて言われたくらい、スタッフさん同士が仲良くなったのも特徴的である。

また、B1に通路とロビー、B2に客席という空間を生かし、B1を使って演技や影を見せたりしたが、へちゃとよっしーがロープを使って上に登るという演出は目をひいたようである。予め、稽古場近くの公園で夜にロープを使って確かめた結果、本番でも行われたものだった。

役者は全員が今回も好演。

つかちゃんこと加治屋君は一度出演を断ったものの、翻意して参加してくれて、結局は殺陣の指導など大きな力になってくれた。

北澤君は細身ながら長身を生かしてロープ登りのサポートや殺陣、そして一人二役に活躍してくれた。ある日の稽古の終わりに彼の発したひと言、「じゃあ、俺今日メトりますんで」(標準語訳;今日私は東京メトロで帰りますので)は稽古場での流行語となった。

また、てっちゃんは稽古場を和ませながら初挑戦の殺陣に体当たりで臨み、最後はいい感じに仕上げてくれた。

沙恵役ののんたんは迫力のある演技。彼女は本番10日くらい前に突然入院し、一同をやきもきさせたが、小屋入り前日の通し稽古で復活し、台詞を完璧に入れてきていた。本番には特に影響がなかったのはさすがである。

支配人役のオガトモこと小川さんは合流が一番遅く、仕上がりに時間がかかったが、声に雰囲気があり、殺陣の心得もあるということだったので、急遽支配人の殺陣のシーンを作ってもらった程である。のんたんがいないときは代役を務めてくれた。

そして、「ヘキセン・ライブ・ハウス」とは全く違った役柄だったへちゃは、殺陣にロープ登りというアクティブな面や、いじめられキャラと思わせておいて腹黒い一面を露呈させるというなかなか難しい役を見事にこなした。何と言っても彼女はこの舞台では正真正銘の「出ずっぱり」。移動途中に水分補給のポイントを作り、動きながら水を飲むという離れ業を使って頑張ってくれた。

作品的には「サスペンス・ホラー」のつもりだったが、時間がループしたり殺陣があったりしたため、「RPGっぽい」という感想を持ったお客さんが多かったようである。また、兄弟間・義理の姉妹間の葛藤等いろいろな要素を取り入れたため、ひとつひとつの印象が薄くなってしまったという指摘も受けた。

年末で忙しい時期だけに、正直動員数は今ひとつだったが、お客さんの満足度は決して低いものではなかった。短期間で仕上げねばならなかったが、いくつもの新しい挑戦が出来た、印象深い公演となった。