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どはちブレイク~夏・夢・幻~

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どはちブレイク~夏・夢・幻~(企画公演)

~観劇日・劇場

2004年7月17日 スタジオSAI

~作・演出・出演

  • 「夏に触れる」 作・演出:吉本博子 出演:宮島紘子・吉本博子
  • 「LOVE PASSION」 作・演出・出演:坂田明日香
  • 「Plastic Surgery」 作・演出・出演:池野拓哉
  • 「白夜の家族3」 作・演出・出演:石井文子

感想

ハートハートハートハートハート

FBI公演「レコンキスタ」で協力してくれたP.A.I.ゆかりのスペースがスタジオSAIであるが、ここで今後毎週土曜日(を含む週末)に、P.A.I.に限らず様々な人達がパフォーマンスを行う連続企画公演が‘どはちブレイク’である。その記念すべき第1弾(だと思う)に、これまたFBIや七色仮面団にゆかりの深い石井が、P.A.I.卒業後初めての個人作品を引っさげて参加するということで、久方ぶりに行ってみた。スタートが夜8時ということで「どはち」と命名されている。今回の参加者は、基本的にはP.A.I.出身者ということで、作品の形式も概ねP.A.I.、すなわちパパタラフマラ主宰の小池氏の方向性に近い。とはいっても、それぞれの個人作品には、それぞれの個性が表れていて面白かった。
 「身体表現」をメインにした小作品群といった感じだったが、僕自身、正直言ってこの分野の表現をうまく捕まえる感性がなく、一つ一つの作品について詳しい感想を述べることは難しい。というわけで、これから書くことは全くの的外れである可能性がかなり高い。それをご了解いただいた上で、いくつか感じたことを書かせていただく。
 大雑把に言えることは、吉本・石井作品と坂田・池野作品で、表現の質が微妙に異なっていたということだろうか。 すなわち、前者の作品は言葉の比重が高く、特に石井作品は完全に「ストーリー」が見える構成だ。それに対して後者は、意味のある台詞らしきものは殆どない。確かに言葉を使ってはいるけれど、それが意味を構成することを周到に、若しくは「本能的に」避けている。言ってみれば、言葉も身体表現の動きの一つと同等に扱われているという感じだろうか。
 また、どの作品にも音楽が使われているが、動きときっちりとシンクロする(例えば、リズムに合わせて体を動かす等)ようなことは殆どない。このあたりにも、小池氏の手法の影響が見える。
 「夏に触れる」は、映像を背景にして、吉本自身の身体表現と宮島のモノローグで構成された作品だ。現在の女(=宮島)が過去の自分(=吉本)を振り返る(あるいは、見ている)というのが大雑把な構図だと思う。学校の校門や住宅街、そして空き地の緑という何気ない「夏」の風景と、吉本自身が白いシーツの上で白いアンダーウエアに身を包んで横たわる姿を背景に、舞台の彼女自身の動きは比較的スローテンポが多く、「能」の感覚が少しあった。宮島の発する言葉はどこか切なげで、時に力強い。最後宮島が広げた白い布に移り込む青空が印象的だった。
 「LOVE PASSION」と「Plastic Surgery」は、正直言って僕には理解不能の作品であった。どちらも時にコミカル、時に力強い動き(ダンス)で、かなりテンポよく見せる。2人とも体がよく動き、まるで何か別の生き物を見ているようだ。坂田は表情も面白かった。池野は途中でバックに落語のような語りを流したりていたが、その内容は「スイカを食べる」というもので、舞台上の動きを直接規定するものではない。どちらも「理解」はできないものの、「意味」ではない「何か」が伝わるものであった。
 そして、「白夜の家族3」。以前の発表会などでの石井の作品が「白夜の家族」という名前だったが、内容的には連作ではないそうである。今回の作品中最もストーリーが分かりやすい構成になっていた。面会時間が過ぎた夜の病院に、意識の戻らない妹を見舞うために潜入した姉が、その妹を相手に一人語りをする。感情を押し殺して語り、制限されたある種の様式を感じさせる動きで見せるやり方は、「能」のようにも見える。しかし、不思議に姉の静謐な「諦念」と「悲しみ」が伝わってきた。作品の最後、妹を殺す場面を、高いところから白いつば付きの帽子を落とすことで表現していたのも印象的だった。石井自身が山の手事情社の研究生時代、そしてP.A.I.で得たものを、オリジナリティに昇華していく過程のワンステップを確実に上がっていることが見えた作品だった。
 ‘どはちブレイク’はこれからも続く。石井も秋に再びオリジナル作品で参加するとのこと。僕が普段慣れ親しんでいる表現とは全く違ったものに触れる機会を与えてくれるものとして、足を運んでみたいと思っている。
 蛇足だが、「夏に触れる」の映像を製作したのは、FBI第3回公演「レコンキスタ」でスライドを作ってくれた影山女史である。吉本は、「レコンキスタ」を見て映像の使用を思い付いたそうだ。また、同じく「夏に触れる」の出演者の宮島は、記念すべきFBI第1回公演「Sweet Dreams」の出演者である。思いもかけないところで繋がっていて、何やらFBIとの因縁浅からぬ関係を感じた吉本作品だった。