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G.G~CRISIS

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G.G~CRISIS(The POWER PROJECT クーデター)

~観劇日・劇場

2003年3月21日 シアターモリエール

~作・演出・出演

  • 作・演出/伝之城龍之介
  • 出演/Hiroka Denzy・みむらえいこ・上田剛・REI・ひでよ(まねきねこ☆)・Atsu・神野さおり・高橋大二郎・石橋修・佐倉卯月・aKKO・佐伯英美・大山雅之・三浦彩花

感想

ハートハートハートハートハート

G.G?CRISISこの劇団を知ったのは、ある劇団員(「CREW=乗組員」と呼んでいるらしい)のこのサイトの掲示板への書き込み(=公演の告知)がきっかけになっている。その後、短期間に多くのCREWの方々が掲示板に登場し、ここを賑わせてくれた。その人達に親しみを感じてしまった僕は、彼等が活躍する舞台を是非見てみたいと、告知されていたこの公演に初めて足を運んでみたのだった。
 もう何年ぶりか分からないモリエールに足を踏み入れてみると、客席スペースの真ん中がぽっかり空いている。前方の「舞台」スペースと併せて、ここも演技の空間になるというわけだ。彼等のサイトのトップページに書かれている劇団のキャッチフレーズ「芝居・演劇上のモラルを打ち破り、独自のエンタ~テイメントを生み出している」の具体的な現れがこの空間の使い方に現れている。
 しかし、お話の方は至って「真っ当な」ファンタジー。巨大マフィア・アルルカインのボス・ギャリソン・グレイプ(Hiroka)が隠し遺産を巡る争いの中で部下に殺された。女神(みむら)によって贖罪のためにピノキオよろしく木の人形にされ、この世に甦った彼は、G.Gと名乗って、かつて捨てた自分の息子・ネルソン夫婦(上田・REI)と3人の子供(ひでよ・Atsu・神野)が暮らす家に住むことになる。しかしネルソン一家は貧困に喘ぎ、家族の気持ちはバラバラだ。そんな彼等の生活を楽にすることで幸せをもたらそうと、G.Gは隠し遺産を取り戻すためにアルルカインの本拠地へ乗り込むことを息子に提案する。はじめは乗り気ではなかったネルソンだが、結局G.Gも含めた一家全員でこのミッションを実行することになる。そのアルルカインは、今やかつての部下・カルマ(高橋)が手下のハスラー(石橋)、愛人のローズ(佐伯)とともに支配していた。アルルカインのちょっと間抜けな構成員達(aKKO・佐倉)との銃撃戦等様々な冒険の末、漸く本拠・アルルカイン城に潜入したG.G達だが、遺産の在処を目前にして一家は捉えられ、子供達はギャリソン逮捕に失敗して捉えられた刑事(大山)のいる牢屋に入れられる。そして夫婦はG.G誘き出しのために城のバルコニーに縛り付けられ、夜明けとともに処刑すると告げられる。しかし満身創痍のG.Gは抜け殻となり、その魂は再び女神の下に。その女神の導きで先立たれた元の妻・ソフィアと再会を果たしたG.Gは、彼女からの励ましで復活を決意する。
 子供達の必死の祈りが通じ、夜明けとともに摂理に反して復活したG.Gは、最後の力を振り絞って一家を救出し、カルマを倒す。ネルソン一家には平和で幸せな生活が戻り、皆に見守られながら再び天国へと旅立ったギャリソンの魂は、女神とともに新たなミッションを探し続ける。
 全編を通して、役者達は客席からギャラリーまで使ってエネルギッシュに駆け回る。ハイライトであるG.Gとネルソン一家の冒険シーンは、「空中散歩傘」や巨大な換気扇のプロペラの上を綱を張って渡る等、さながら映画のような発想で、これを空間と小道具と役者の体を使って表現しようとするサービス精神には感服させられた。ただ、それらがあまりにも脚本のイメージをストレートに再現しているため、観客の想像力の範囲から抜け出せず、新たなイメージを喚起し切れていない面があると思う。例えば、カーチェイスを車の着ぐるみ(初めて見た!)を着た人間にやらせるのはアイディアとしては面白いが、むしろ役者の動きと効果音だけで表現する方が、逆に広がりが出ると思う。それは衣装、音響についても言える。特に気になったのは、過剰といえる音響である。音楽に合わせて台詞なしの動きのみで表現するディズニーアニメのような手法などはストーリー上それなりに生きているが、例えば縛られたネルソン夫妻がこれまでの自分達の関係や過去を振り返りながら関係を修復していくシーンは、本来台詞だけでも十分見せられる筈である。役者を鍛える意味でも、ここは2人の存在感に託してよかった場面ではないか。音楽が合っていなかったとは言わないが、それに寄りかかって雰囲気を作ろうとするシーンが他にもいくつか見られた。
 脚本はまさに真っ当なハートウォーミングなストーリーだが、せっかく「ピノキオ」だったので、個人的にはもう一捻りほしかった気もする。また、ギャリソンの贖罪にスポットを当てるには、彼の生前の残忍さ・非情さが前半でもっと描かれていた方がよかったし、アルルカインという組織についても突っ込んだ描写があっていいと思う。また、登場人物が多いこともあって、特にネルソン一家以外の人物の書き込みが甘くなっていることは否定できない。それでも、ファンタジー特有の「陶酔感」のようなものがあまり感じられないのは作者が男だからだろう。この点は好感が持て、比較的素直に劇の世界に入ることができた。
 スピードとパワーが重視される運動量の多い舞台だが、僕が見た初日はややこなれが悪く、時々不必要な間があった。ただ、これは回を重ねて改善されただろうと推測される。社会人が結構いる劇団だが、役者陣のレベルは、人によってバラツキはあるものの全体としては高く、芝居にまとまりがある。G.GのHirokaは渋い雰囲気を出しながら時にコミカルで、主役として座りがよい。ネルソン一家の5人は、それぞれが個性をはっきり出していて、しかもバランスがよい。中でもG.Gとともに冒険の先陣を切る末娘マーシャルの神野が、小柄ながらパワーを炸裂させて芝居を引っ張る姿が印象的だった。
 エンターテインメントを標榜していることもあって、難しいことは考えずに万人が楽しめる舞台である。ディズニーやスピルバーグの作品が好きな人ははまるかも知れない。劇団としての底力はありそうなので、今後は舞台美術も含めていい意味で客を裏切る表現方法に挑戦してほしいと思う。仕事を持っている身としては、同じ境遇で活動を続けている彼等に対しては心からエールを送りたい。若い役者も多いので、これからどう成長した舞台を作ってくれるのか楽しみである。