Favorite Banana Indians

Mail

HAMLET CLONE

ホーム>レビュー>HAMLET CLONE

HAMLET CLONE(T FACTORY)

~観劇日・劇場

2003年7月3日 森下スタジオ

~作・演出・出演

  • 作・演出/川村毅
  • 出演/福士恵二・伊澤勉・JOU・笠木誠・片倉裕介・加藤あんな・村島智之・添田園子・菅井マサ子・田辺希・山根祐夫・吉村恵美子

感想

ハートハートハートハートハート

川村毅の芝居を見るのは本当に久し振りである。かつて第三エロチカを率いて小劇場界で異彩を放っていた氏の劇的世界は、一言で言ってゴツゴツとして猥雑だった。その後、氏は第三エロチカを解散せずに、新しい形態のユニットを立ち上げた。それがこのT factoryである。「劇団という集団性にとらわれず、様々なアーティスト、パフォーマーとコラボレーションを行おう」というのが集団を立ち上げた目的だったそうだ。第三エロチカの舞台にちょっと食傷気味で足が遠のいていた僕としては、おそらくこの集団は第三舞台の別ユニットとして鴻上氏が作った「KOKAMI @ network」みたいなものというイメージで見に行った。が、結論からいうと、それは随分と違った様相を呈していた。
 ストーリーは、あるといえばあるし、ないといえばない。とはいっても戯曲は出版されていて(僕は劇場で買った)、何と英訳、仏訳も存在しているそうだ。つまり、台詞は厳然として存在している。にもかかわらず、それらは単純なストーリーをつむぎはしないのである。タイトルにあるとおり、確かに「ハムレット」「オフィーリア」「ホレイショー」「フォーティンブラス」といった『ハムレット』の登場人物が登場する。ところが、舞台となっているのは現代(あるいは近未来)の日本の都市(おそらく東京)なのである。ハムレットの「クローン」である「王子」は3人いて、1人は女(添田)、そして1ははゲイ(村島)になっているし、オフィーリア(吉村)は「私、お嫁に行けなくなっちゃう」などと言いながら、家庭崩壊の末にAVに出て放尿したり、怪しげな風俗で働いたりしている。フォーティンブラス(福士)は政権を握っているが、密かにクーデター(内戦)の勃発をおそれている。そういう登場人物の間に、ハムレットを演じたがっている1人のしがない泥棒(笠木)が関わる。泥棒は、前政権の国防長官で浮浪者になっていた石田(福士・二役)をひょんな事から殺害、身代わりになることでこのクーデターに参加することになる。
 川村自身も映像の中にどアップで出演したりしている。舞台には可動式の鉄格子があり、これが演技空間と役者の大気空間を仕切ったり、舞台前面に出てきたりして空間を変える。女3人を中心とするダンスが所々挿入されるが、これは今流行のものではなく、どちらかというと「痙攣」に近い動作である。客が劇に過剰に没入することを避ける効果があると同時に、この芝居の全体的な雰囲気をよく表してもいる。
 川村のモチーフとして「内戦」「革命」といった政治的なタームがこれまで嫌という程語られてきた。この舞台に置いても然りである。けれど、どうも川村はそういったモチーフが「物語」という予定調和な世界に回収されていくことを嫌っているようなのだ。しばしば出てくる登場人物達のモノローグは相変わらず甘美な響きがあり、詩的ですらあるのだが、それは直線的に劇を進行させはしない。映像とともに喚起されるのはあらゆる「イメージ」である。けれど、そのイメージは例えば零式の芝居のようなものとは明らかに違う。登場人物達が「物語」の歯車とはならず、かといって拡散するイメージに身を委ねるだけの存在とも違う。この舞台は、これまで僕が見たこともない仕方で『ハムレット』という「物語」を語っている。
 役者は出自も様々である。しかし、やはり現第三エロチカの役者である笠木と吉村が印象的だ。やはり川村の芝居にはゴツゴツした役者と演技のエッセンスを持っている役者が似合う。かつてはこれをかなりストレートに出していて、役者はみんな声をからして汗をとばしながら力の入った演技をしていたものだ。だが、T factoryではこれを全く別のアプローチで表現しているということのようである。
 こうした劇作の手法は一朝一夕になったわけではなく、この「HAMLET CLONE」は1999年に1年間かけてワークショップで作り上げ、途中段階で「ワークインプログレス」という形での公演を行い、2000年に上演。その後海外公演。そしてこの2003年版を上演するために改めてワークショップ形式のオーディションを行うという、言ってみれば試行錯誤の積み重ねの中で作られてきたものなのだ。実際、2003年版は2000年版の戯曲とは印象がかなり異なっていた。
 相変わらず猥雑でエネルギーに満ちた川村の世界。「HAMLET CLONE」というタイトルにも現れているように、川村は現代に歴史・物語の「クローン」を作り出そうとしているのである。それは、本来過激な化学反応を伴う。川村はそれを誠実に行おうとしているのだ。正直言って万人を惹きつけるものではないだろうし、成功してるかどうかは分からないのだが、少なくとも僕は、これまで食傷気味だった世界と違うものが見られるという意味では、T factoryの次の舞台に足を運ぼうという気にさせられたことは事実である。