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カノジョ7人冬物語

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カノジョ7人冬物語(ZIPANGU Stage)

~観劇日・劇場

2003年2月16日 萬スタジオ

~作・演出・出演

  • 作・演出/今石千秋
  • 出演/キム木村・佐土原正紀・新田正継・中里圭太・滝沢久美・堀江ゆき・酒田恵美子(演劇レーベルBo-tanz)・上原利恵(マチナカパンダ200㎞/h)・西薗優・嶋方淳子・西尾景子(かわうさ懐石)・平野ともえ

感想

ハートハートハートハートハート

カノジョ7人冬物語大人のシチュエーションコメディを上演する劇団として、旗揚げから今年で10年だそうである。僕はこの劇団の前身から知っているのだが、初期は路線がだいぶ違っていた。数年前に萬スタジオBACKUPシリーズでグランプリを獲得。以後の公演は全て萬スタジオとの提携公演となっていたり、主宰の今石がラジオドラマのシナリオを書くなど、地道な活動で徐々に力を付けてきていた。昨年にはそれまでの数年来のメンバー多くが入れ替わり、それ以降は積極的に客演を呼びながら舞台のクオリティを維持している。今回は10周年記念の新作である。
 芸能事務所に所属する達也(キム)と冬樹(佐土原)はともに端役ばかりの売れない役者。今日は辣腕プロデューサー・乙根(新田)が仕切るドラマ「忍者刑事」の撮影で地方のとあるホテル(とは名ばかりの安宿)の食堂で、同じ事務所でメイクに命をかける鏡花(西尾)と関西人で威勢のいい梢(酒田)らとともに出番を待つ。梢は達也と付き合っているので今日こそプロポーズすると鼻息も荒いが、実は達也には事務所のマネージャ・志保(滝沢)という同棲相手がいた。そこに乙根とADの一子(上原)が血相を変えて駆け込んでくる。主役が事故のために急遽降板することになり、オーディションを行って達也か冬樹のどちらかを主役に抜擢するというのだ。一世一代のチャンスと張り切る達也。一方、達也の女達が鉢合わせしてしまったので冬樹は気が気ではない。ところが、その大切なオーディションを前に、達也がこの一両日の間に口説いた未宇(西薗)と人妻・芳美(平野)、志保が次々に訪れる。さらに達也は一子や主役の大女優・葉月(嶋方)をも口説いていたことが判明。そして、葉月と間違えて鏡花にまで口説き文句を言ってしまう。達也は冬樹と、たまたま居合わせた地元のおじさん・太一(中里)の力を借りて7人の女達を騙し通してオーディションに合格し、主役の座を手にしようとするのだが…
 文字通りホテルの食堂に登場人物が出入りする「グランドホテル形式」の手法、そして主人公達が嘘に嘘を重ねることで泥沼にはまっていくというスラップスティックの常道で構成されるこの脚本は、今石作品の定石ながら今回は特にまとまりがいい。演じること=嘘を付くこと=生きることという図式は別に目新しいものではないけれど、「役者と恋愛」という結びつきと、「役をもらう=選ばれた者になる」ということを巡る問題に焦点がしっかりと当てられ、特に演劇経験者が見れば共感を呼びそうな部分がかなりあった。また、食堂のカウンターの向こうで全ての成り行きを見ている初枝(堀江)の存在がきいている。かつて今石にはある種の役者論の作品として「アクター」があったが、あれに比べればずっと現実の苦み、おかしみ、悲しみを描いている分、分かりやすく共感を得やすい脚本になっている。
 役者の演技を見ても、いつもは「コメディ」を意識するあまりか、率直に言ってドタバタがくどく、オーバーアクションが鼻につく傾向があったが、今回は適度に抑制がきいていて、アクションよりも間とネタで笑わせるという方向に行っていた。これは10年の成熟の賜物か、それとも役者の腕なのかは定かではない。
 キムのちゃらちゃらした優男ぶりと佐土原のいかにも無骨で不器用な個性が好対照で、そのコンビネーションが生かされていた。特に佐土原の、自分に不利になっても相手のために頑張ってしまうもてない男がよい。脚本上もよく造形されていたと思うし、それを佐土原がよく表現していた。女優陣はみな達者で、それぞれ違う母体の出身とは思えない程バランスよくまとまっていた。僕と同じ会社に勤めていて、劇団旗揚げ時からのメンバーである滝沢は、公演ごとに様々なタイプの役を振られる役者だが、やはり今回のように肝になる台詞をズバリと言い切るような、鋭さと強さを持った女を演じさせると映える。彼女の日常もそうであるかどうかについてのコメントは差し控えたい。
 今回は、10周年にふさわしく「当たり」の舞台だった。ただ、いつも思うのは、完成度が上がればあがる程、こういう芝居は必ず「何か」に似てくるのだ。すなわち、「何処かで見たような」設定、登場人物、そして展開と結末。安心して楽しめる芝居には違いないのだが、次の何かがほしくなるのもまた人情である。「ZIPANGUにしかない何か」をどうアピールしていくのか。劇団がここまで生き残ったからには、これからの活動の中でそれを模索する姿を見せてほしいと思う。
 勿論、現状でも万人が楽しめる等身大の舞台であることは保証できる。次回公演が楽しみである。