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LIAR BIRD

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LIAR BIRD (The POWER PROJECT クーデター)

~観劇日・劇場

2003年7月21日 大塚ジェルスホール

~作・演出・出演

  • ~作・演出/伝之城龍之介
  • 出演/上田剛・高橋大二郎・REI・神野さおり・HirokaDenzy・関根裕介(アーバンアクターズ)・aKKO・中山圭大(アーバンアクターズ)・三浦彩花・みむらえいこ・(フェイムステージ)・佐倉卯月・佐伯英美・大山雅之・Atsu・ひでよ

感想

ハートハートハートハートハート

LIAR BIRD前回から4ヶ月という比較的短いインターバルで、T-PPCの22回目の公演(反乱)が行われた。当サイトでもすっかりお馴染みになったあの劇団である。前回は「よく走り、よく動く劇団だな」という印象を受けたのだが、今回の劇場はジェルスホール。あの狭いところをどうやって走り回るのかと思っていたら、一般的な舞台配置とは違う使い方をして、動くスペースを確保していた。
 しかも今回は「演劇的テーマパーク」をうたっていて、何と客入れの段階からショーアップされていた。客をグループに分けてディズニーランドのシンデレラ城ツアーよろしく役者が案内し、劇中の世界に導くという趣向だ。しかも開演前の舞台上では、大道芸と称してT-PPCの役者達によるパフォーマンス(ダンスやマイム等)が繰り広げられていて、早めに入った客も時間を持て余したりしない。驚くばかりのサービス精神である。
 芝居の内容も、前回同様「テーマパーク」的である。ブルックリン家の一人娘・シャロット(神野)は、恋人のセイル(関根)がマフィア絡みでBB団というギャング集団に狙われているのを知って、父親のブラッド(Hiroka)と母親のサラ(REI)が止めるのも聞かずに、セイルを助けるために家を飛び出す。ブラッドとサラは不仲で離婚寸前。そこでサラは元恋人の売れない作家のロジャー(上田)と弁護士のレイ(高橋)にそれぞれシャロットは彼等の実の娘だと嘘を付いて、シャロットを探して連れ戻してほしいと頼む。こうしてちぐはぐな二人はコンビを組んで娘の元へと向かう。一方、ブラッドとサラも後を追っていた。漸くシャロットを見つけた二人は、彼女に頼まれてセイル救出に向かうが、彼等の前に立ちはだかったのは、BB団(三浦・みむら・佐倉・佐伯・大山・Atsu・ひでよ)と彼等を率いる凶悪なジャッカル(中山)だった。
 前作以上に「家族」に焦点を当てた脚本である。「離婚」という問題に直面しているブルックリン夫妻、重病で入院中の父親の入院費を作るためにやばい仕事に手を染めてしまったセイル、そして仕事のために子供を欲しないレイに不満を抱く妻のピーチー(aKKO)、そして「実の娘」のために奮闘するロジャーとレイ。そして、両親の冷え切った関係に胸を痛めるシャロット。それだけに、登場人物同士の関係性をきちんと見せる必要があるのだが、人数が多い分それぞれの関係が若干表面的になった感がある。特に気になったのはブルックリン夫妻の描き方で、2人の溝を最初に深くすればする程、娘の失踪事件を通してお互いを見つめ直して関係を修復していく過程が見えやすかったし、シャロットの心の傷の深さが強調された筈だ。おそらくここには、芝居自体が重くなりすぎてエンターテインメントの枠を超えてしまうことに対する伝之城氏の警戒感が働いていたと推察される。その判断は間違っていないが、個人的には食い足りなさを感じてしまったことも事実だ。しかし、これはある種の「お伽噺」だと思えば合点がいく。登場人物の名前が日本名ではないことも、ある種の「生々しさ」を消すための仕掛けのひとつなのだろう。
 とはいえ、テンポの良さとパワーで客を引き込んでいく手法はさすがだ。遊園地や観覧車といったモチーフもさり気なくきいている。あの狭いスペースでの殺陣はさすがに密集した感じになったが、「マトリックス」ばりのスローモーションを交える見せ方が効果的だった。
 役者陣も好演で、役の個性をよく表現していた。シャロットの神野は稽古中に怪我をしていたとは思えない動きで熱演。時折見せる静かな演技もアクセントになっていた。また、上田と高橋の好対照なコンビがおかしく、とくに高橋はニヒルな演技の端々で見せる茶目っ気に好感を持った。前作以上にパワーアップした「奥様」のREIと、全作のヒーローぶりとはうってかわったダメ父さんのDenzyの2人も芝居の重しになっていて、この2人の演技はもう少し見たかった気がする。悪役なのに憎めないジャッカルやBB団は完全に引き立て役になっていて少々可愛そうな気もしたが、圧倒的に女優さん(それも可愛い系のルックスの人ばかり)が多いBB団を全員男の設定にしたのは無理があった。ストーリー上は女のままでも何ら支障はなかったと思う。このBB団の一員を演じていた佐倉にラスト近くのシーンでラビットという女を演じさせていたが、なかなか新鮮だった。ああいう役で1本通す彼女も見てみたい。
 BB団のシーンでは客を舞台に上げていじる部分があったり、お約束の「妙なマネ」シーンで遊んだりと、本編以外でも客をのせて引き込む術に長けた劇団である。「テーマパーク」に入園したお客さんをとことん楽しんませようという彼等の姿勢の表れだ。実際、客席はよく湧いていたし、終盤には泣いている客もいたようだ。狙いがはっきりしている分、見ていて心地よい。課題は、個性的な役者が多すぎて、全員に見せ場を作るのが困難になっていることだろうか。次回はどんな仕掛けで、そして誰がメインになって僕達を楽しませてくれるのか。今から次が待ち遠しい劇団である。