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みずうみ

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みずうみ(ぷろじぇくと☆ぷらねっと)

~観劇日・劇場

2005年1月23日 神楽坂die pratze

~作・演出・出演

  • 作・演出/日疋士郎
  • 出演/荒井隆人(東京ガラパゴス)・桃山由希絵・片岡永子(弾丸MAMAER)・愛原こず江(シアターナノ.グラム)・有江瑠美・原朋之(くろいぬパレード)・下浦治徳(劇団(仮))・鈴木啓司・壬生亮佑・さかした日出美

感想

ハートハートハートハートハート

ぷろじぇくと☆ぷらねっと第1回公演「After The Carnival」に僕は出演している。それ以来、約1年ぶりの公演である。1年前のあの芝居の成果をどう受け継ぎ、また問題点をどう克服して、何処へ向かおうとするのか。そのヒントでも見つけられればと思っていた。そして、今回は昨年の舞台での共演者が何人も出演している。彼等が日疋の作り出す劇的世界でどう変わるのか。それも僕の関心事だった。

 「After The Carnival」もそうだが、この作品もなかなかストーリーの全貌を解説しづらい。ブライダル産業に勤めるトキオ(荒井)には、妻・ユズル(片岡)との間に一人娘・ヒナコ(桃山)がいた。一方、トキオは部下のツキヨ(桃山・二役)とも7年越しの付き合いをしていた。ヒナコへの愛情とツキヨの愛の間で、トキオは苦悩する。ヒナコは幸せについて考えるが、ユズルから聞かされた昔話に登場する魔女・リリスの姿を見てしまう。トキオはヒナコと「ずっとずっと、ときわに」一緒にいようと約束する。そしてツキヨは湖に身を投げるが、それはトキオに少年時代のある「事件」を思い出させる。

 シーンとともに登場人物と時間軸が変わる‘正統派・小劇場演劇’的構造の戯曲のため、ストーリーを直線的に追うのは困難だが、トキオ・ユズル・ヒナコ/ツキヨの関係という幹となる部分がはっきりしているため、客はそう混乱無く芝居の世界に入れる。ただ、‘正統派・小劇場演劇’を見慣れた身としては、客の思考力を麻痺させて流れに乗せるためには、もう少しスピードがあってほしいと思う。もっとも、それでは日疋の台詞のリズムと叙情を殺すことになり、難しいのだろう。
 そして今回は、「After The Carnival」にはあまり出てこなかったアンサンブルを多用し、これが劇的世界に奥行きを与えた。ペットボトルを使って魚やチェスの駒を表現したり、おもちゃのピアノやリコーダーを使って生演奏したり等、イメージの使い方も面白い。前作に比べて方法論が整理され、これも見やすくなった一因である。しかし、一方では文語調の台詞を語るトクサの存在や、ヒワ達のお絵かきシーン等、必ずしも必要とは思われないものも見受けられた。まだまだ取捨選択の余地はあるだろう。

 荒井はこの種の長台詞に慣れていないのか、ポイントポイントでやや単調になったきらいがある。存在感はあるが、台詞のニュアンスの表現の面では率直に言ってまだ力不足だと感じた。少女・ヒナコと女・ツキヨとを一瞬で行き来する難役の桃山は、見事にこれをこなした。欲を言えば、ツキヨの造形にもう少し「凄味」がほしい。片岡は、劇団で見せるコミカルな顔とはうって変わって、夫への愛情が冷めた妻を堅実に演じて、芝居の一方の軸となっていた。その張りと艶のある声が役柄によくはまっていたと思う。
 アンサンブルは、メインストーリーの補完という役割を超えて、もう一つ別の劇的世界をオーバーラップさせるような効果のある仕上がりになっていた。中でも、愛原は声と体の大きさもさることながら、小技もうまくひときわ目立つ存在だった。また、トキワの壬生は、最後の台詞で強い印象を残した。キクジンの2人(鈴木・下浦)は息が合っていて面白い存在だったが、「父に代わる権威」というまでの重みや存在感はなかった。

 ぷろぷらの芝居の特徴は、何と言っても日疋の作り出す台詞の独特の言語感覚だろう。前作ではそれが空中を浮遊しているような捉え所のなさを感じたが、今回は例えば「永遠」について扱っていても、例えば大人になって直面する「規則性」の崩れた現実とそれを生きる不安感、また「家庭」「恋人関係」の不安定さ等といった、僕達の生きる現実世界の題材を通して描かれている。演出と舞台美術の視覚的効果も相まって、この手法は成功していると言っていい。今後の作品でも、この「現実」との距離感をうまく保ち、バランスを取りながら独自の方向性を貫いて行ければ、ぷろぷらは今以上に多くのコアなファンを獲得していくだろう。