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2009年7月20日 小劇場楽園
こちらスーパーうさぎ帝国(こちうさ)の芝居は、以前1度だけ見たことがある。ここは、FBIの舞台に2回出演してくれた佐々木いつかがここ数年毎回出演しているので、お誘いはよくあった。
基本はコメディだが、今流行のシチュエーションコメディというより、スラップスティックの線が濃いだろう。チラシの紹介文によれば、母体は日芸出身者で、「ポップでロックな爆笑劇」を上演し、「笑っているうちに自然とメッセージが伝わるような芝居を目指」しているそうだ。
今回の舞台も、まさにそんな感じの作品に仕上がっていた。
舞台は、聖学院工業高校の生徒会室。
ここは、もともとは倉庫だったものが、校舎の改築により生徒会室が使えなくなったため、気の弱い生徒会長・副本(加藤)のお陰で、他部に押し出されるようにしてあてがわれた部屋だ。
この部屋には「開かずの扉」と書かれた小さな扉がある。
が、冒頭からここは、部屋に入ってきた岸利(深)に開けられてしまう。中には「押すな、危険」という張り紙が貼られたスイッチがたくさん並んでいる。
そこに顧問の師岡(仲村)が現れ、岸利をスイッチの前の椅子に座らせる。
師岡の説明を受け、岸利がその中の1つのスイッチを連打し続けると、そこに生徒会役員の面々が、引っ越しのために現れる。
しっかり者の副会長・長谷川(金子)、やたら大きな段ボールにけったいな筆記用具を詰め込んだ書記の黒田(西岡)、会計の中村(松下)、そして会長の副本である。
引っ越しが終わったばかりのその部屋に、ろくに仕事をしないサッカー部との掛け持ちの役員・関(山中)が、入会希望の1年生・矢沢(佐々木)を連れてくる。矢沢は一字違いの学校が舞台になっている漫画に出てくる生徒会に憧れ、入会を希望したのだ。
意気消沈していた一同は、矢沢に励まされて元気を取り戻し、今年の文化祭の成功のための白熱したミーティングを行う。
その声がうるさいと、隣の部室で練習していたブラバンの部員・遠山(小久保)が伝えにくる。遠山は岸利の彼女だ。
また、この部屋にある「隠し部屋」には用務員の村木(吉田)が住んでいて、村木もこの騒動に加わる。
そんな中、矢沢が「開かずの扉」の中にあったあるスイッチを押してしまった。すると、何と校舎が爆発。驚く一同。
実はこの装置、師岡が発明したものだった。
そして、この装置で椅子に座った人間が「S」のスイッチを押すと、その人間以外の時間が3分止まることになっている。
そして、岸利が連打していたスイッチは、そのスイッチを押すことで時間を3分間だけ過去に戻すことが出来るというものだ。
こうして岸利は、10年後から戻ってきたのである。
それには訳があったのだ。
10年後、岸利は遠山と結婚しているのだが、持病の喘息が原因で就職先からリストラにあった。このままでは遠山を幸せにできない。
そう考えた岸利は、10年前に戻り、遠山との関係を断ち切ろうと思っていたのだ。
学校爆発のどさくさの中、3分間時間を止めた岸利は、遠山と向き合う。
何が起きたか分からず、戸惑うと遠山に、岸利は別れを切り出そうとするが、思わず、「結婚してくれ」と言ってしまう。
そしてさらに時間を1年遡り、2人の出会いの場まで戻った岸利は、突然別れを切り出すが、それがきっかけで2人は付き合うことになってしまう。
師岡は、「未来は変えてはいけない」と岸利を諭し、もう一度11年後の「現在」に戻るように岸利を懸命に説得するのだった。
とにかくテンポのよい舞台である。随所に漫才のような遣り取りが入り、展開も巧みで飽きさせない。およそ90分という尺もちょうどいいし、変に話をひねっていないので、誰もが楽しむことができる。
とかくこうした「タイムスリップ」ものは嘘くささがつきまとうものだ。
この芝居の設定にしても、3分間時間が止まっているときに、別の時間を動ける人間がいるのは何故か、とか、そもそもこれが実際に過去に起きたことだとすれば(岸利は未来から戻ってきても、他の「タイムスリップ」ものと違って、当時の岸利には会わず、自分自身がその時間の世界に入り込むようになっている)、岸利は永遠にこの過去と現在を行き来するループを繰り返すことになるのではないか、とか、師岡と岸利のタイムスリップをめぐる遣り取りを関が盗み聞きして、岸利が未来から来た存在だと知ってしまうという件があるが、それも過去の時間の中(つまり、その時代に既に起きていること)なのか、師岡は厳密にはいつの時代に存在しているのか、とかいろいろである。
時間軸のずらし方が人によって混在しているため起きている混乱である。
が、こうした疑問をとりあえず忘れてしまえば、というか、力業で忘れるように客に仕向けているところが、逆説的に感じるかも知れないが、この劇団の芝居作りの緻密さを表している。
役者は高校制役が大半だが、20代半ばの劇団員が18歳(佐々木は16歳)を演じる「痛さ」は殆ど感じなかった。過剰に「高校生」という設定を意識していない演技、そして全体的に童顔の劇団員が多かったことが、そう見せたのだと思う。
若干老け顔の加藤も、情けない生徒会長役を公演していたし、その他の役員も個性豊かで笑える。
時々やってくる電気科3年の山川(南部)が、その都度おもちゃのロボットを持ってきたりするところも可笑しい。
また、最初のストップモーションで全員が泊まったときの絵柄を、「最後の晩餐」にしているあたりも芸が細かい。
贔屓目になってしまうのかも知れないが、一番無理がなかったのが矢沢役の佐々木だ。年齢が下ということもあり、一番高校生っぽく、また思い込みの激しい感じや、出来心でスイッチを押してしまう所など、彼女の素を知っているだけに「ああ、ありそう」という感じで、うまい使われ方をしていると思う。
用務員の村木も、出てきただけで笑いを誘うが、岸利の行為が成就するためのキーパーソンという設定が若干分かり難かったのが残念だった。
岸利の深と遠山の小久保のカップルは瑞々しさを出しており、「ああ、青春」という甘酸っぱさをよく表現していた。
オープニングでの出演者紹介、タイトル出しをアナログ(音楽に乗せて演技者が自分の名前を書いたノートを開いて歩き回り、別のページを開いて一緒になると、それぞれのノートに書かれている文字の一部が組み合わさって、全体としてタイトルが出てくる)も面白いアイディアだ。
ちょっとすべっていたギャグもあったが、全体としては客の反応もよく、舞台と一体化していたと思う。これも、ただのノリだけに頼らず、きっちりした舞台作りをしている証だろう。
前回見たのはサラリーマンものだったが、やはり「青春」を演じるのに若さを生かせているということと、舞台を生徒会室に固定した所謂「グランドホテル形式」の作劇術が利いている今回の方が、僕としてはお気に入りだ。
僕自身の青春の黄金時代も高校だったので、感情移入がしやすかった。
こちうさは、肩も凝らないし、完成度もこの世代の劇団としては高い、万人にお勧めできる劇団だ。
今後は、自分たちの力量とカラーにあった素材をどんな手つきで扱っていけるかが、この劇団が大きくなれるかどうかの分かれ目となるだろう。
今は「コテコテ」路線なので鼻につかない演技も、今後はもっと成熟させていく必要があると思う。
いずれにしても、伸び盛りな劇団である。
若手で面白い劇団を見たいという方は、是非一度見に行ってみるといいだろう。