Favorite Banana Indians

Mail

The Reality show

ホーム>レビュー>The Reality show

虚構の劇団「The Reality show」

~観劇日・劇場

2008年12月20日

~作・演出・出演

  • 作・演出/鴻上尚史
  • 出演/山崎雄介・小野川晶・渡辺芳博・大久保綾乃・三上陽永・小沢道成・高橋奈津季・杉浦一輝・小名木美里

感想

ハートハートハートハートハート

The Reality show2008年最後の観劇は、鴻上作品である。
 今回見に行った「虚構の劇団」は、鴻上が第三舞台やkokami@networkとは全く独立した劇団として、無名の若手をオーディションで募って立ち上げたものである。
 これまで準備公演と第1回公演を打っているようだが、僕は都合で見に行かれなかった。故に、今回が初見参である。
 鴻上が「ごあいさつ」で書いているように、旗揚げから3作目にして紀伊国屋公演というのは、いかにもペースが速い。一杯のお客さんも、こう言っては劇団員に酷だが「鴻上尚史」のネームバリューで呼んだ人達が多いと思う。
 その意味で、劇団自体の力量はどうかと思ったのだが、さすがは鴻上の指導の下にあるだけあって、紀伊国屋の空間に負けてはいなかった。

 沢村(山崎)が主宰の劇団「祝祭の宴」のメンバーがとある一軒家に集められた。これは、ネットTVのフューチャーネットドットコムが企画した、日本初の本格的リアリティ・ショウのためである。
 劇団員は4週間この家にこもって次回の芝居「ロミオとジュリエット」の稽古をすることになる。その様子は24時間全ての部屋に仕掛けられたカメラで撮影され続けることになる。しかも、部屋に鍵はかからない。
 もしアクセス数が一定以上を越えれば、公演のDVDが発売できるというのである。
 そのメンバーの中に、劇団員以外の人間が混じっていた。それは、カルト教団から強制的に保護されてきた新人女優・成島(小野川)であった。
 沢村はキャスティングを発表し、成島をジュリエットに付けるが、元々劇団の看板女優である瓜生(大久保)は納得しない。それでも、稽古は開始される。
 劇団員の数が足りないため、語り手を入れて物語を薦めていくことになるが、瓜生はその語り手を、ロミオの最初の恋の相手で原作では登場しないロザラインという人物にしてはどうかと提案し、自分がその役に就く。
 暫くして、なかなかアクセス数が伸びないことへの対策として、フューチャーネット側から、稽古の昼休みにお互いに好きな人を発表し、カップルができたら、唯一カメラが仕掛けられていない「5号室」を使ってもいいという提案があった。
 沢村は難色を示すが、結局それは行われることになる。
 最初、沢村は瓜生の名前を書くが、瓜生は劇団一下っぱなのに年上の長谷川(渡辺)の名前を書く。そして、カップリングが成立する。
 実は沢村は瓜生が好きなのだが、瓜生は過去に所属していた劇団が演出家と主演女優の恋が原因で潰れたことがトラウマとなって、沢村の気持ちを受け入れられない。
 劇団員で汎(パン)セックスを公言する野原(小沢)は、成島の演技相談や、他の劇団員の人生相談に乗っている。
 一方、初日の集合時間に遅れ、ネットで様子を見守る劇団員の根本(杉浦)のもとに、飯田(小名木)という女性が訪ねてくる。そして、自分は成島と同じカルト教団から逃げてきたのだという。2人は劇団員達の所に向かうことにする。
 成島は夜な夜なそのカルト教団の教えを思い出し、悪夢にうなされ、大声を上げる。
 また、他の団員も、閉塞した状況の中でおのおの悩みを抱えていた。
 そしてある日、沢村と成島、そしてもう一組のカップリングが成立し、ネットでの投票の結果、沢村と成島が5号室を使うことになる。
 成島は、自分はカルト教団の信者同士の子供であり、ここで沢村が本当に自分を愛してくれていると分かれば、自分は「お父様」=神の子になれるのだという。
 戸惑う沢村。
 また、異常なアクセス数の増加に疑問を感じた一同が調べると、何と途中から根本と合流した飯田が「皆さんのために何かをしたい。」ということでシャワーを浴びていたという事実が発覚する。
 その飯田は、成島に教団が実は金儲けを目的とした詐欺集団だったという事実を告げる。
 ショックを受けた成島は…

 様々なトピックが盛り込まれた芝居である。
 密室で監視されていると、人々はどういう精神状態になり、どういう行動をするのかということを描いた作品とも撮れるし、宗教というもののマインドコントロールの力の強さを描いた作品ともとれる。
 劇中、5号室の会話が何度か登場するが、ここではカメラがないのでみんな本音で語っているという設定になっている。しかし、よく見ると、プロセニアムの上に取り付けられたカメラにずっと照明が当たっている。したがって、5号室もまた盗撮されているのではないか、とにおわせる仕掛けも隠し味だ。
 また、「ロミオとジュリエット」の恋愛劇と、沢村と瓜生の「禁じられた」恋の悲劇を重ね合わせているのも面白い。
 恋愛について、メディアについて、匿名性に守られたネット上の不特定多数の暴力等の現代の歪んだ病理について、様々な方向からこの作品を語ることができる。
 やはり、現代の問題点や病理を描くとき、鴻上の筆は冴える。
 80年代に「時代の寵児」と言われた頃を思い起こさせる面白さだった。
 思うに、これは若手俳優を使ったことが大きい。

 その役者は、流石に鴻上が選んだだけあって粒ぞろいだ。
 山崎と大久保は、この芝居の事実上のロミオとジュリエットだが、存在感たっぷりの演技で魅せてくれた。この2人の感情が一番切なく伝わってきた。
 もう1人の要である小野川は、マインドコントロールが実は解けていなかったがゆえに沢村を求め続けるという役だが、夜に苦しむ場面はもっと悶絶していい。ただ、他の劇団員からの浮き加減はうまく表現していた。
 脇ながら台本的にも美味しかったのが野原役の小沢だが、相手に教訓を与える部分では説得力があり、おかまっぽさを出して笑いをとるところでは確実に三の線をこなし、存在感があった。
 また、ずっとネット視聴者に「嫌われ者」に選ばれ続ける隈川役の三上も、堂々たる嫌われ者ぶりでピリッとしたアクセントになっていた。
 実はフューチャーネットのディレクターでこの企画を立てた張本人だった長谷川役の渡辺は、落ち着いた演技で無難にこなした印象。
 飯田役の小名木は、最後の「…のために」の連呼の痛さが印象的で、まずまずの仕上がりだった。
 その一方で、がたいは大きいのに線の細さを感じてしまった吉川役の高橋、ずっと傍観者で出番が少なかった生もあるが、今ひとつ存在感を発揮できなかった根本役の杉浦は、今後に期待したい。

 「虚構の劇団」の僕の印象を一言で言うなら、「00年代に蘇った第三舞台」というところだろうか。
 それを裏付けるかのように、次回の公演は第三舞台のレパートリーだった「ハッシャ・バイ」である。
 ここのところ中堅・ベテラン俳優との仕事が多かっただけに、鴻上は時代を切り取る鋭利さやスピード感、パワーを失っていると感じていたが、やはり若手とともに時代の表層を駆け抜けていく姿勢が一番似合う。
 一般受けを狙わない(というふうに見える)尖った感じが小気味よく、久々に僕は興奮した。
 今後、この劇団が、そしてここの役者がどう成長していくのか、どんなステージを展開していくのか。
 また一つ、楽しみな劇団が増えた。

 なお、全く意識せずに行ったのだが、僕の見た回は千秋楽で、カーテンコールで鴻上本人が登場。
 1人1人の役者をそれぞれ短いエピソードと共に紹介していた。
 また、カーテンコールは何回も行われ、その度に役者は呼び出されていた。
 (最後は鴻上が客の拍手を止める一幕もあった。)
 なかなか興奮した一夜であった。