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ロミオとシラノとジュリエット

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ロミオとシラノとジュリエット(キャプテンチンパンジー)

~観劇日・劇場

2005年1月28日 中野ザ・ポケット

~作・演出・出演

  • 作・演出/坪田直也
  • 出演/SUNDAVE・池上映子・岸本尚子・長浜良子・チャーリー畠山・風堂隼人・青木十三雄・辻輝子・垣添厚至・白井美紀・木村賢・之・宮下真・廣川政紀・竹井一晴・清水仁美・大橋麻美・中村麗香・小林タカマサ

感想

ハートハートハートハートハート

ロミオとシラノとジュリエットキャプテンチンパンジー(キャプチン)の舞台を見るのは、昨年の「ピノキオ」以来である。ここには書かなかったが、万人に受け入れられるハートウォーミングなSFものだった。僕はこのときのピノキオ役の清水の存在感と演技がお気に入りだった。そのキャプチンが、今回は「古典劇」に挑戦である。とはいえ、そこはちゃんとキャプチン流のアレンジが施されていた。

 ヴェローナの王・エスカラス(青木)の跡継ぎである王子が何者かに暗殺された。王は、長年対立するキャピレット家とモンタギュー家のどちらかから王位の継承者を選ぶことに決める。キャピレット家の長男・ティボルト(木村)は臆病者で戦の役には立たない。そこで、長女のジュリエット(岸本)が女だてらに剣を取り、最前線でモンタギュー家と戦っていた。一方、モンタギュー家の次男・ロミオは見た目だけはいいが、剣の腕も勇気もないダメダメ男。しかし気だては優しく、町はずれの教会でバルサザー(清水)達子供と遊び暮らしていた。そのロミオとモンタギュー家の騎士・シラノ(SUNDAVE)は大の親友。シラノが変名を使って発表している連続小説「月世界旅行」はヴェローナでも大評判となり、ジュリエットも愛読者の1人だった。
 ある日、たまたま町中で出会った騎士姿のジュリエットにロミオは一目惚れ。シラノに仲を取り持つように頼むが、実はシラノもジュリエットへの秘めた思いを持っていた。そんな中、町中での諍いでティボルトが相手の家の者に刺殺される。一触即発の両家の関係を何とか収めたい王の前に、かつての友人で大国・オレゴン国の司祭であるロレンス(畠山)が現れた。ロレンスは王に、ジュリエットが婿を迎え、その者と二人で王国を継承することにしてはと助言する。こうして、両家の間で和睦が結ばれ、ひょんなことからロミオとジュリエットが結婚することになるが、望んだ結婚ではなかったためジュリエットはロミオと口もきかない。そして、この結果に満足できないキャピレット家に、大国・ドーラ国の使者だというロザライン(風堂)が近付く。
 そんな折りも折り、モンタギュー家の長男・マキューシオがキャピレット家の者に刺殺される。怒ったモンタギュー家側は和睦の破棄を宣言、ヴェローナは再び不穏な空気に包まれる。実はこの事件の裏には、ヴェローナを潰そうとする二つの大国の陰謀が働いていたのだ。

 お話はよくまとまっている。恋愛や男同士の友情、争いごとの虚しさなどのテーマがうまく盛り込まれて、万人が最後まで安心して見られる物語である。親友の恋を取り持つ「シラノ・ド・ベルジュラック」の設定を「ロミオとジュリエット」に移植した発想も面白い。が、このよくできた物語は、逆に破綻もなく、深みにも欠けるうらみがある。つまり、客をいい意味でも悪い意味でも最後まで裏切らない芝居なのだ。セットも衣装も凄いものだが、僕にはこの点がどうにも物足りなく感じてしまった。実はこのことは、「ピノキオ」でも感じていたことだったが、主役を演じた清水のあまりに見事なロボットぶりに、ついつい引っ張られて見ることができたのだった。
 それにも増して疑問だったのが、今回のキャスティング。要となるロミオとシラノの両方を女優に演じさせたのはどんなものだろうか。勿論、二人ともそんなに悪くはなかったが、特にこの二人には「男の友情」を体現させたり、恋することのみっともなさを表現しなければならない役割がある。それを女優がやってもリアリティは出ないし、生々しさが消えて綺麗になりすぎる。それが一つの狙いだったのかも知れないが、僕にはしっくりこなかった。また、ラストシーン、シラノ絶命の場面ではシラノに最後まで語らせすぎで、客の想像力を働かせる余地を与えなかった。これが結果的に余韻を弱めてしまうことになったと思う。

 役者は全員がしっかりとした演技で危なげがない。王と悪役2人が独特の存在感があったのはいわば当然として、骨太な演技で見せたのは垣添。ロミオの池上はどうしても男には見えず最後まで違和感が残ったが、シラノのSUNDAVE(何と読むのだろう?)は演技としては申し分のないできで、物語を引っ張る力があった。ジュリエットの岸本は騎士姿とお姫様ドレスを交互に着るという「1回で2度美味しい」役だったが、これを無難にこなした。ただ、双方の落差をもっと出せるとよかったし、さらに言えばロミオを再評価する場面の心の動きがもう少しはっきり見せられるとよかった。ただし、この点は脚本の責任も大きいと思う。僕の注目していた清水は、今回役があまり大きくなくて活躍の場も限られたが、彼女の特性を生かしたキャスティングになっていたと思う。また、ジュリエットの付き人を演じた長浜が、この物語では唯一とも言える「息抜き」キャラを軽快に演じ、舞台に明るさとテンポを与え、ラストもきちんと締めていたのが印象的だった。

 2作品を見た僕の結論は、やはりキャプチンはSFが似合うということだ。そして欲を言えば、いい意味で客を裏切れる劇団になってほしい。おそらく、作・演出が決断すれば容易に実現する話だろう。役者にはその実力、ないしは素質が既に備わっていると思う。ただし、キャプチンの客がそれを望んでいるかどうかはまた別の話ではあるが。