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シンデレラ ストーリー

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シンデレラ ストーリー(フコク生命ミュージカル)

~観劇日・劇場

2003年8月16・23日 青山劇場

~作・演出・出演

  • 作/鴻上尚史
  • 演出/山田和也
  • 出演/大塚ちひろ・井上芳雄・池田成志・橋本さとし・川崎麻世・寿ひずる・宮地雅子・森若香織・佐藤正宏・東山義久・前田健・藤森徹・デーモン小暮閣下 他

感想

ハートハートハートハートハート

シンデレラ ストーリー僕は普段、殆どミュージカルらしいミュージカルを見ない。あの、突然歌い出すところがどうにも馴染めないのだ。歌と芝居が完全に分離されているものはまあ許せるという感じだろうか。そんな僕がこのミュージカルを見に行ったのは、ただ単に脚本を鴻上さんが書くからというだけであった。しかし、いざ蓋を開けてみると、予想以上に楽しめたのだった。
 物語は、お馴染みの「シンデレラ」にほぼ忠実。とある王国の王子・チャールズ(井上)は、援助を受けることと引き替えにマイティ王国の姫との縁談が進められることに反発していた。そんな王子を王様(川崎)は叱り、王女(寿)は心を痛める。その王国に住むシンデレラ(大塚)は、継母・ベラドンナ(池田)と二人の姉(宮地・森若)に虐められながら忙しい毎日を送っている。出稼ぎに行っていた実の父親(デーモン)が戻ってきて再会を喜び合ったのもつかの間、ベラドンナに見付かって2人はこっぴどく怒られる。そこへお城からの使者が訪れ、「国中の若い娘は王子様の結婚相手を決めるためのお城での晩餐会に出席するように」と告げる。ベラドンナと娘達は大喜び。早速身支度を調えるために出かけようとする。シンデレラは姉達にお古のドレスや鬘を借りようとするが、姉達はシンデレラの目の前でドレスを引き裂き、鬘を壊してしまう。そして、ベラドンナはシンデレラ宛のお城からの招待状を破り捨て、父親を出稼ぎへと追いやってしまうのだった。
 いつもシンデレラにチーズを分けてもらっていたネズミ達(佐藤・東山・前田・藤森)はこれを見て憤慨し、自分達でドレスを作ろうとするが、うまくいかない。落胆するシンデレラ。すると、どこからともなく魔法使い(デーモン・二役)が現れ、シンデレラの実の母親への恩返しといって、魔法の力でドレスを与え、ダンスのできるガラスの靴を履かせ、ネズミを御者と馬に、そしてカボチャを馬車に変える。ただし、12時の鐘の音と共に魔法は解けてしまうというのだ。シンデレラは喜び勇んでお城に向かう。
 お城では舞踏会が開かれていた。そこに現れたシンデレラに王子は一目惚、ダンスを踊って欲しいと頼む。そして2人はダンス会場を抜け出し、ベラドンナ達のしつこい追跡もかわして、2人きりの楽しい時間を過ごす。しかしその時、12時の鐘が鳴り渡り、シンデレラは慌てて王子の元を去る。王子はシンデレラの残した片方のガラスの靴を手がかりに、「この靴の女性と結婚する」と宣言。宮廷大臣(橋本)に命じて靴の持ち主を捜せと命じるのだった。
 さすがに鴻上さんの脚本だけあって、お馴染みの物語がスピーディに展開する。所々に現代の世相の風刺や小劇場テイストの遊びを取りれ、飽きさせない。最後にシンデレラの出自(家柄)が問題になり、高貴な家柄の出である証拠を魔法使いが出した途端にめでたしめでたしとなるご都合主義的な展開はさすがに苦肉の策という感じがしたが。音楽はバラードあり、ロックありとバラエティに富んでいたし、舞踏会ということでダンスも自然に取り入れられていた。
 大塚と井上は無難に役をこなしていたが、共演者の強烈さは凄いものだった。デーモン小暮は父親・魔法使い・お城のネズミの頭と3役こなしていたが、コミカルな演技がはまっていたし、魔法使いがシンデレラに魔法をかけるときの長い歌の場面では、さすが閣下!と思わせるパワーで引っ張っていた。また、宮廷大臣の橋本は新感線仕込み(?)のくすぐりで王子様をリードしていたし、ねずみ佐藤の達者さは今更言うまでもない。けれど、なんと言っても今回の脇役のスターは継母と娘のトリオだろう。ことに、継母の池田はまさに生き生きと演じていて、間違いなく当たり役といっていい。その池田に付いていく形で宮地、森若がパワーを出しているという感じだった。3人で歌う「私は勝つ!」は終演後にミュージシャンがアンコールとして演奏したくらい、弾けて楽しいナンバーになっていた。
 総じて今回の舞台では、主人公の2人よりもデーモン小暮と意地悪親子が印象に残る結果になった。これは役者の力量と言うよりも、今の時代の状況として、どんな手を使ってでも世俗的な利益を手にしようとする継母親子のバイタレティの方にリアリティがあるということだろう。その意味では、お伽噺の成立しにくい世の中だと思う。
 これまで鴻上さんは「魔法使いなんていないんだよ。お伽噺なんて現実にはないんだよ」というスタンスの芝居を書いてきた。しかし今回この脚本を書いたのは、かつて劇場に通っていたという母親から「子供と一緒に楽しめる芝居を作ってください」と言われ、そこに芝居というメディアへの「愛」を感じた鴻上さんが、それに応えるのもまた自分の仕事だと思ったからだという。その姿勢には心から敬意を表したい。確かにこれは、大人でも十分楽しめる舞台になっていたし、僕のような「ミュージカル食わず嫌い」の人間でも、また根っからのミュージカルファンでも無理なく楽しめる、間口の広い舞台だと思う。この種のエンターテインメントが増えてくることは、一観客としては大歓迎である。
 因みに、僕はたまたまチケットが手に入ったので2回見たのだが、クオリティが均一なのはある意味で当然としても、遊びの部分の芝居が微妙に異なっていた。橋本と井上の掛け合いも2回目の方が井上がこなれてきていて、役者や舞台は日々変化するのだということを改めて認識した次第である。