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True Love~愛玩人形のうた~

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True Love~愛玩人形のうた~

2012年9月14日~17日 d-倉庫

第8回True Love~愛玩人形のうた~【作】息吹肇
【脚色・演出】h
【CAST】

  • i:奥井佳尚(サラエンタテインメント)
  • 鮎川哲郎:晃映ヒロ(エフ・スピリット)
  • 江本美智子:有宗麻莉子
  • 上杉翔太(Aキャスト):小林照平(オフィスジュニア)
  • 上杉翔太(Bキャスト):日高竜一(オフィスジュニア)
  • 八神愛理:新井賀子(コペル)
  • 検察官/記者:佐賀俊忠(劇団M.M.C)
  • 弁護士/記者(Aキャスト):日高竜一(オフィスジュニア)
  • 弁護士/記者(Bキャスト):小林照平(オフィスジュニア)

あらすじ

ロボット研究の第一人者の一人である鮎川博士は、人間の女性の形をしたロボット「i」を完成させた。iは所有者を「ご主人様」と認識し、所有者を攻撃しようとするものを撃退する護身用ロボットとして開発されたが、同時に、所有者の命令には絶対服従するという特徴を持っていた。  また、iは高度な人工知能を持っており、人間の「感情」に近いものを作り出すことができる。鮎川は、以前結婚を約束しながら事故死してしまった女性がシンガーだったことから、iの「感情」を「音楽」として内蔵メモリーに記録するように設定していた。
 鮎川は「理想の女性」としていつしかiを愛するようになった。
 Iはこの「絶対服従」のことを「愛」だと認識するようになる
。  しかし、鮎川を密かに慕う女性研究員の江本は、「別の人間でもデータを取るべきだ」と強く勧め、結局鮎川はiの設定を、音楽メモリーを除いていったん全て消去した上で、別の男・上杉を使用者として登録して渡す。
 しかしこの過程で、実はiに未練がある鮎川は、自分の「愛」の記憶を密かにiのメモリーに残しておいたのだ。
 上杉は何でも命令に従うiを気に入り、好んで側に置くが、上杉の恋人・八神にはそれが面白くない。何とかiを上杉から引き離そうとするが、iはそれを「ご主人様」に対する攻撃と見なして度々威嚇する。そして、2人の関係には徐々に亀裂が入り始める。  一方、鮎川はiが忘れられず、江本が止めるのも聞かずに、上杉の下へ行き、iを力尽くで取り戻そうとして上杉と格闘になり、ついに上杉を絞殺してしまう。  iは「ご主人様」に対する攻撃と見なし、鮎川を攻撃しようとするが、自分の中に残された博士の記憶との間で葛藤する。しかし、その葛藤の中、iは博士を攻撃してしまう。そのiを江本が特殊銃で撃ち抜く。
 壊れるi。

 ここまでは全て、上杉を失った八神が、江本と彼女が所属する研究所を訴えた裁判で、検察側の証拠として提出されたiの内蔵メモリーの再生と、それを見ていた江本の回想だった。
 証言を求められた江本は、「裁かれるべきは『愛』だ」と述べる。

コメント 

第8回公演は、これ以前に2回企画されたものの、いずれも途中で流れてしまっている。そのため、第7回公演とは5年近くの間隔が空いてしまった。(その間に番外公演があったが。)まさに因縁の公演と言えそうだが、今回は2008年夏に第8回公演として予定していた脚本を生かしての公演となった(「Machine」を改題)。
ただ、上演に至るまでには些か紆余曲折を経ることになった。

 今回は、FBI始まって以来のことがいくつかあった。一つは役者全員をオーディションで選ぶこと、もう一つは完全ダブルキャストでの上演である。また今回は、当初「音楽劇」と銘打っていたように、劇中で主演のキャストが歌を歌うことになっていた。
オーディションで役者を選ぶに際しては、やはり今回初めてお願いすることになった舞台制作会社さん(代表の方は、あの劇団ショーマの創立メンバーだった方である)を窓口に募集した。結果、舞台や映像の経験も豊富な人達が集まった(舞台は初めて、という人もいたが)。また、主役に歌唱力が求められることから、オーディションでは全員にアカペラでめいめいの得意な歌を歌ってもらっていた。

 こうしてAチーム、Bチームそれぞれ5人ずつ、計10人のキャストが決まり、チームごとの稽古に入った。
ところが、稽古中盤から僕の体調が悪化し始めた。以前にもそれで芝居の準備を途中で流すことになってしまった持病の悪化である。そしてとうとう「ドクターストップ」。僕達は稽古を続けられなくなってしまった。
こうして一度は公演の中止が決まったのである。

 ところが、ここで出演者の一人である晃映君が奮起。自分が演出を引き継ぐので何とか公演を打てないかと言ってきた。話し合いの結果、彼の要望通り、稽古は続けられることになった。ただ、この過程で、Bチームの役者のうち日高君以外の全員とAチームの一人が降りることになった。また、「中止」が決まった時点で各スタッフにそのことを伝えていたため、既に別の仕事を入れてしまったスタッフさんが殆どだった。
そのため、晃映君は不足するスタッフとキャストを探し、改めてメンバーを再構成しなければならなかった。ついでに言えば、稽古場も全てばらしてしまっていたため、制作会社さんの伝手でまた押さえ直さなければならなかった。
この作業が終わり、晴れて稽古が再開したのは9月に入ってから。新しくキャストとして入った有宗さんや佐賀さんの苦労は大変なものだっただろう。勿論、役者が変わったので一からシーンを作り直さなければならなかった演出の晃映君や他の役者もやはり大変だったと思う。

 こうして出来上がった舞台は、d-倉庫の高さのある空間をうまく生かし、基本的に役者が出はけをしないで舞台上に留まる演出になっていた。これは舞台装置の当初のプランとの違いによるものである。脚本の構造からいってこれは理に適った処理の仕方だったといっていい。ただ、出はけする役者もいて、演出としての統一が取れていないと感じた。
また、芝居が始まって間もなくとラスト近くで上がり下がりするタイトルが書かれた幕が非常に効果的であった。
脚本は必要最低限の書き変えがなされていたが、僕が見て違和感を覚えるほどの改変ではなかった。

 役者は概ね好演。
主役のiを演じた奥井さんは、若手ながら臆すことなく真っ直ぐな芝居。専門のトレーニングを受けただけあって歌もきまっていた。晃映君は演出しながらで大変だったと思うが、iの相手役の1人として、また芝居のもう一つの要として、存在感ある演技を見せてくれた。Aキャスト、Bキャストで別れた照平君、日高君も熱演。iに「細工」をすることで「事件」の原因を作ってしまう愛理役の新井さんは、可愛いルックスを持ちながら、「ジェラシーに燃える表情が怖い」とアンケートに書かれた。また、短い期間で役作りをしなければならなかった美智子役の有宗さんは、繊細な美智子の感情をよく表現していたし、アンサンブル的な役割の佐賀君も、要所を締めてくれていた。
実際、アンケートは好意的な意見が殆どで、お客さんには一定のインパクトを与えた舞台になったと思う。

 ただ、僕自身、今回は中途半端にしか関われなかったので、稽古場でこの芝居が進化していく過程を見届けられなかった。それが心残りである。そのために、出演者の面々と十分に心の交流ができなかったのも残念であった。
また、実際に上演されたものを見て、若干の不満が残ったもの事実である。時間やお金の制約のため、当初僕が考えていたことを変更しなければならなかった点があったからだ。しかし、それは、誰のせいというわけではなく、僕が途中で演出を降りなければならなくなったことが原因である。形にしてもらっただけでもよしとしなければならないのだろう。

 このような事情もあり、今回は僕にとってはいくつかのチャレンジをしながらも、それを自分で実を結ばせることができなかった。その意味で、振り返ると少し複雑な気持ちになる公演となった。

 蛇足ながら、この公演で初めて、役者に「ギャラ」が発生した。主役の奥井さんにはチケットバックの他に、安価ではあったが一定額のギャラが支払われた(他の役者は全員ノルマなし、チケットバックのみであった)。
これはある意味で画期的だったと思う。小劇場で芝居は打っていても、志は大きな劇場の公演と同じでいたいという、不肖息吹の志の表れと思っていただきたい。