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Unforgettable

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第6回 Unforgettable

2006年12月8日~10日 麻布die pratze

【 作・演出 】息吹肇
【 演出助手 】柊子(Cradle)
【 CAST 】  

  • 渚:佐々木いつか
  • 大江千波:豊田ゆかり(ラ・プラージュ)
  • 藤木吾郎:菊川仁史(アポロ5)
  • 吉野遥香:大塚梨絵
  • 立花大樹:森田和正(Gooday Co.)
  • 森山瑞希:たまえ(はなまる大作戦)
  • 藤木克己:小野正幸
DVD販売中  

あらすじ

OLの千波は子供の頃、通り魔に両親と妹を殺され、今は里親の息子の吾郎と同棲している。そんな千波の携帯に、「あなたの記憶買います」と書かれたメールが着信する。不審に思いながらも、千波はそのメールの差出人と会う。 メールの主は渚と名乗る女子大生。彼女は人の記憶を入れ替えたり消去したりする能力を持っているという。半信半疑の千波の記憶を、渚は一時的に入れ替えてみせる。

 一方、編集者の遥香も同じ内容のメールを受け取る。遥香と同棲する売れないフリーライターの大樹は、そのメールをネタに文章を書いて一山当てようと、遥香に記憶の操作の実験台になるよう唆す。それを実際に体験した遥香は怯えるが、大樹は再び遥香に渚と会い、やり取りの一部始終を隠し録りしろと言う。

 再び渚のもとを訪れた千波は、家族が殺された事件の記憶のうち、千波に欠落している部分、すなわち犯人の顔の記憶を求める。それは千波が家族の無念を晴らしたいという強い思いをずっと抱いてきたためだった。しかし、渚が「再生」させた「記憶」の中で、千波の家族を殺していたのは吾郎だった。激しい葛藤の末、千波は吾郎を自らの手で殺してしまう。しかし、これはかつて吾郎に強姦された「記憶」を持つ渚によって仕組まれた「復讐」だった。

 遥香は渚から、自分と大樹が結婚したという「記憶」を買い、大樹の妻として振る舞おうとする。大樹は遥香が録音した会話を元に、渚の身辺を本格的に調べる。そして、渚を探す姉の瑞希と会い、取材結果を基に瑞希を強請る。その後大樹は、渚を訪れて情報を買うように迫るが、逆に全ての記憶を消されてしまう。

コメント

7月の公演がコラボの予定だったため、それとは別のFBI単独公演として、前年の冬から7月公演とセットで企画されていたものである。上演されたのが「息吹肇‘生誕’20周年」という記念すべき年だったため、当初は柊子さんの演出により上演することを意図していた。また、上演作品として選んだ『Unforgettable』は、2002年時点で最初のプロットがあり、2003年には『レコンキスタ』に先行して3分の1ほどが書き上げられていた。第3回公演で上演することも検討されたが、あてにしていた役者に断られたこと等があり、その時点では上演が見送られたという曰く付きの作品である。いつか必ず上演しようと機会を窺っていたものだ。

 前の公演終了後すぐに準備に入らなければならず、スタッフは早くから決定していたものの、役者選びがこれまでの中で一番難航した。男優のあてがなかったことと、「性的表現」があったことが大きな要因である。先に作品の骨格や台詞があったため、所謂「当て書き」を行わず、全てのキャストを純粋に脚本のイメージに合わせる形で探すことになったが、これはなかなか新鮮だった。制作さんに全面的に協力してもらって進めたキャスト探しは、初めてmixiまで駆使して行った結果、これまでFBIに出演の経験も、FBIの舞台を見た経験も全くない顔ぶれが揃うことになった。また例によってキャスト全員の決定と脚本の完成が遅れることになり、稽古期間は十分に長いとは言えなかった。

 しかし、ふたを開けてみると、これまで誰も一緒に芝居を作ったことがないとは思えないチームワークを発揮。今回のメンバーの役作りや芝居に取り組む姿勢の真摯さ・前向きさは、FBI史上最高のものだったといっていい。恋人同士を演じる千波役の豊田さん(アネゴ)と菊川君(きくりん)は、遊園地のシーンがあることに絡めて、役作りのために実際に遊園地で「デート」をした。また、ある役やシーンのために、全員で自主的にエチュードをやったりするなど、みんなで芝居のレベルアップを図ろうという姿勢が強く見られたのもこのチームの特徴である。

 今回初挑戦の「性的描写」に関しては、演出助手として参加してもらった柊子さんの‘熱血指導’のおかげで、不自然でなく、過度に卑猥でなく、綺麗な中にも猥雑な感じに仕上げることができた。スリップ1枚(に近い姿)で舞台に立ったアネゴや、1年前まで実際に着ていたという制服姿でレイプを表現するシーンに挑んだ渚役の佐々木さん(いっちゃん)など、みんな体当たりの演技を見せてくれた。そのいっちゃんと、りえぷーこと大塚さん(遥香役)が稽古場での‘二大泣き虫’で、シーンの稽古をしながらよく涙ぐんでいた。

 シビアなシーンが連続する芝居でありながら、稽古場は熱気にあふれながらも和気藹々とし、「愛ゆえに」「…だけに」「ちゃんとしてる・してない」等の「名言」も生まれた。

 前回からうって変わって布をベースにしたシンプルな舞台美術となった今回だが、カーテンを使った演出が好評だった。また、myria☆☆のPVを撮影した中原監督による映像は美しく、芝居にマッチしているとのご意見を多くいただいた。

 そして今回、七色仮面団時代の『私の国のアリス』以来というオリジナルの‘主題歌’を使用。2006年1月末にたまたま見に行ったイベントを仕切っていたインディーズ系のアーティスト・小林未郁さんに作詞・作曲をお願いした。小林さんにとって初めての経験という主題歌『記憶ノ海』は、思った通り芝居の空気にピタッとはまった。千波が吾郎を刺殺するシーンでかかり、舞台の雰囲気を作るのに大いに貢献してくれた。

 年末にもかかわらず、FBI史上最高の観客動員を記録。最終日にハプニングがあり、僕は生まれて初めてスタッフ用のインカムを付けて、手に汗を握りながら映像操作をした。

 芝居の方は、勿論好評・不評の両方があったが、今回はこれまでの中で最も好評の比率が高かった。前から僕の芝居を見てくれている複数の人が「これまでの作品の中で一番いい」と言ってくれるなど、僕の「代表作」のひとつになることは間違いない。また、これからFBIで芝居を打つ場合、出来不出来等の基準として必ず引き合いに出されることになるだろうと思われる。生誕’20周年にこのような芝居を作ることが出来た意味は、決して小さくない。

 今回の出演者とはまだ交流が続いている。勿論、今後のFBI公演の出演者の有力候補となるだろう。

 今回は、奇跡的な出会いが奇跡的な結果を生んだ公演として、いろいろな意味でまさに「忘れられない」公演となった。